あの小学館の学習雑誌が今年の3月で休刊になる。
最盛期は1973年、一冊当たり82万部も発行されていたのが、直近では2万部程度まで落ち込んだ。さすがに隔世の感がある。ぼくも『小学一年生』から6年間、愛読していたこともあり、なかなかせつないものですね。もう発売日が待ち遠しくて、月末近くなると本屋の前をうろうろしていたもんです。
雑誌の休刊は2011年前半だけでも100誌を超える。
もう雑誌は用済みなのかもしれない。と言い切るのはカンタンだけど、なかなか複雑な思いである。ネットが普及し、ここまで無料情報が手に入るようになればわざわざ雑誌を買ってまで・・ということなんだろうけど、知りたい情報をさっと調べてそれでおしまい。というのは「ヤリ逃げ」に近い気もしてくる。恋愛のプロセスがそうであるように、獲得までの回り道こそ、人生にあらゆる恩恵をもたらすんじゃないかと思う!
と、力むほどのもんじゃないけど。
休刊は漫画雑誌にも及ぶ。
社会現象まで起こした少年ジャンプも全盛期の半数を売るのがやっとで、ビジネスジャンプなどは休刊された。とはいえマンガ人口は減っていない。ぼくは何十年も前からほとんどマンガを読まないのでそのへんの事情は疎いのだけど、読みたいマンガは単行本で読まれるのだろう。となると、たとえば知られていない新人漫画家の作品が世に露出されにくくなる。雑誌でなら偶然読者の目に止まり、そこで人気が出て売れっ子になるのだろう。そのチャンスが減るというのは、なんともかわいそうだ。
有名作家や人気作家の著書は黙っていても売れる(というのはいささか言い過ぎかもしれないけど)。まだ有名でも人気でもない作家は、黙っていたら売れない。どころか、世に知られもしない。
かつては自費出版の詩集を売るひともいた。
寒空のもと、シートが敷かれそこに詩集が売られる。売れないまま、買ってくれる人を待つ。作品を書き、出版社に持込み、少部数ゆえ割高な単価をなけなしのお金で支払い印刷してもらい、寒風吹きすさむ中詩集を売る。でもこれからは、そんなことをしなくてもよくなるかもしんない。
先日アップルが無料で電子ブック制作ソフトの配布を開始した。「制作ソフト」といってもワープロ並みの手軽さでiPadで読める電子ブックを作ることができる。テキストや写真はもちろん、音声や動画も組み込める。少しだけ使ってみたが、びっくりするくらいカンタンである。さっそくiTunes Connect のアカウントも取得した。これで電子ブックを自分で作り、アップストアで配布することができる。無料で配布してもいいし、値段をつけて売ってもいい。
アップストアにぼくの本が並ぶかも。
売れ過ぎたらどうしよう?などと、しなくていい心配をするのはまあお約束だけど、例えば前述の新人漫画家さんが自分の作品を、出版社を通じず出版する敷居が下がったというわけだ。マンガよりも写真というひとならば、自分の撮った写真を一冊にまとめればいい。作曲に自信があるなら電子ブックに曲を埋め込んでもいい。動画も然りだ。表現作品者にとっては機会到来である。
そう考えれば、電子化の影響で泣くのは作家や漫画家さんや、ましてやぼくたちではなく、明らかに出版社や取次業者である。でもそこに務める編集者にチャンスがないわけじゃない。電子出版をしたい作家やアーティストたちをネットで呼びかけ、広く編集作業(校正・校閲・デザイン)を請負うという仕事だってあるかもしれない。
今の時代を味方にして才能を開花させるか、敵にしてとことん嘆くかは、結局のところ自分次第なのである。どんな時代であれ、前向きに生きる材料なんて、死ぬほどあるからだ。
セルフパブリッシングソフトは、今回紹介したApple iBook Auther よりAmazonのほうが先行しています。日本では著作権保護がどうたらこうたらで、実は制度的にはもう一悶着ありそうですが、個人が誰でもその才気を活かして「著作物」をダイレクトに売る環境に拍車がかかることは間違いありません。高齢化社会はいかに生活を持続可能にするかがポイントになりますが、例えば老後、年金だけに頼らず、こうして「自分の作品」を世に知ってもらい、納得してもらえたら売れることも出来る環境整備が必至だとぼくは思います。世界のどこにいても自分の作品を世界に売れるというのは、人生を豊かに自由にしてくれるものと信じているからです。
最近のコメント