マレーシアでの話を書いたあと、各方面からいろんな質問や意見をもらった。多かったのが「国外逃亡ですか?」といった類。なるほど、確かに日本の未来を案じ、資産や家族を国外へ脱出させる動きがある。ぼくもそのひとりだと思ったらしい。大外れだが。ぼくにとっての逃亡先は、むしろ国内の方である。
さて、マレーシアでは引退されてロングステイされている日本人夫婦のお宅にもおじゃました。ある程度生活費があることを前提に、マレーシアは外国人(特に日本人)にはMM2H(マレーシア・マイ・セカンド・ホーム)という長期ビザを発給している。期限は10年、更新もカンタンだ。震災後、取得する日本人が急増しているという。とはいえ、前年比200人アップ程度ではあるが。
ある老夫婦が日本でひと月20万円程度の年金で暮らせば、生活はおのずと質素になる。だがマレーシアなら同じ年金額で50〜60万円ぶんの生活も可能だ。ゴルフフィーも安いからゴルフ三昧、テニス三昧の上、3ベッドルーム、プール付きの高級コンドミニアムで暮らせる。ベランダからはKLが一望でき、目の前はゴルフ場のような公園が広がっていた。日本クラブ主催のイベントやサークルも豊富だから、日本語で友人たちと楽しく過ごせると、ご夫婦は話してくれた。「たった7ヶ月で200人くらい知り合いが増えた」とのことであった。ふたりともとてものびのびとし、くつろいでいるかんじだ。話していて、とても気持ちが良かった。
聞けばマレーシアは6年連続で、日本人の海外ロングステイ候補地で人気ナンバーワンなんだそうだ。親日国と高度成長以外にも好条件がそろっているのだろう。だのに在留邦人はマレーシア全土で約1万人。このうちKLが6000人程度。意外と少ない。ちなみにタイは5万人、人口500万人足らずのシンガポールですら2.6万人である。ということはまだまだ伸びしろがありそうだ。中国を見限る日系企業や人も増えるだろうから。
今後、ある程度の歳になれば海外に住むのが当たり前の時代が来るかもしれない。望まずとも、せざるを得ない世の中になる可能性もある。2030年には3人の働き世代が一人の老人を養い、2050年には一人の働き世代が一人の老人を養う。あなたがいま32歳として、72歳になったとき、あなたの年金を負担するのはたったひとりの働く人である。
日本人は遠慮深い。いまのうちに生活保護をもらうだけもらっておけばいい。と考える人よりも、案外「国の世話にならないようにしなければ」と考える人のほうが多いのではないか。このうち、あえて国外で老後を過ごすという人は確実に増えると思う。
現役時代に海外生活を体験した人も増えているだろうし、ICTの発達でどこに住もうが変わらない「自分環境」を持ち続けられる。例えばタブレット端末で、自分の主治医に病気や健康についていろいろと相談できる環境など。また自動翻訳付きのスマホで、現地語がしゃべれずとも会話ができる時代になっているかもしれない。
ただ「移動コスト」は高くなりそうだ。環境保護やらエネルギー争奪戦の観点から、今後飛行機代や列車代など移動税が新たに付加されるかもしれない。いまもすでに飛行機代の半分が「サーチャージ(燃料費)」で占めている。そのうちサーチャージのほうが高くつくだろう。原発なき日本はさらに高くつくのは避けられない。
40年後、おそらく自分は生きていないだろう。
だが40年後のことを考えて生きねばと、思う。
この身体は「入れ物」だ。
入れ物は、いつかは返さねばならない。
生き方とは、入れ物に何を入れるか?
ということで、返す日が近づくほど重大だ。
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