「借金をする人は太っている人が多いんだ」
と友人Kがいうので、ぼくはあわてて「そんなこと言っちゃダメだろ」と制する。Kは大手銀行系の消費者金融会社に勤めており、金融会社は個人情報の宝庫でもある。Kは「ちがう、ちがう。個人的に心理学に興味があるだけだよ」と業務上知り得たことじゃないことを強調した。
Kによれば、借金をする人は何ごとも「後回し傾向」にあるのだそうだ。欲しいものがあれば先に買い、足りなくなって金を借りる。言い換えれば、働いてお金を貯めることを後回しにし、先に欲しいものを手に入れる。というわけである。
「それが太っていることとなんの関係があるんだ?」
とぼくは訊く。関連性がわからない。Kはうれしそうに「ダイエット中なのに、ガマンしきれず食べちゃうんだ」と笑い「だからいつまでも痩せない」と答える。そういうKも小太りなのだが、ダイエットはしないそうだ。「デブは想定内」なんだそうである。
後回し傾向のあるひとたちはまた、夏休みの宿題を8月31日に終わらすタイプでもある。おとなになってもクセは治らず、課題もギリギリになって提出する。「やりたいこと」を優先するから「やりたくないこと」が後々まで残るのである。ときに宿題は新学期までに間に合わず、課題は取り残される。勉強も出世もできないタイプかもしれない。まるでぼくのようじゃないか。衝動買いについては、心当たりがある。
Kは話を続ける。
最近じゃ審査がほとんどオンラインに成り代わったから、カネを借りに来る相手の顔を見ることもない。でも昔は相手の体型を見定めながら、カネを貸しても大丈夫かどうかを判断することもあったらしい。とKはいう。にわかに信じがたいが、話としては面白かった。誘惑に負けやすい性格というのは、禁煙にも禁酒にも失敗しやすいし、ダイエットも成功し難いといえなくもない。やめようと思いつつ、ギャンブルにハマりやすい人もきっとそうなのだろう。ギャンブルに借金はつきものである。
こうした傾向にあるひとを、行動経済学的にいえば「時間割引率が高い人」という。時間が経てば経つほど満足度が割り引かれるから、欲しいものを見つけると、いますぐ食べたり、飲んだり、買ったりする。今買わなきゃソンと考え、いま食べなければ後悔すると考えやすい人を言う。なかなか長期投資家には向かないタイプである。
もしあなたが誰かにお金を貸さなきゃならないとしたら、少なくとも浪費家か倹約家かは見極めたほうがいい。このとき相手が「ダイエット中なのに」いつまでも太っていたり「夏休みの宿題」を後回しにするタイプなら、迷わず断るべきだろう。さらに経営者がこういうタイプなら、その会社に投資するのはやめたほうがいいかもしれない。