ぼくはコインを財布に入れない。
財布がかさばるのが好きじゃないからだが、硬貨はむき出しのままズボンのポケットにつっこんでいる。海外のコインは比較的大きくて重いから、それでポケットがよく破れた。日本の硬貨は小さく軽いのが、つくづくありがたい。
レジで会計をするとき、硬貨をできるだけ減らしたくて小銭から先に払う。たとえば合計1078円だった場合、ちょうど10円玉が7枚、一円玉が8枚あるとほんとうに気持ちがいい。テトリス全面クリアみたいな。逆にこのとき一円玉が7枚しかないと、運命が呪われているような気すらする。通貨の価値が下がるわけでもないのに、小銭が増えるだけで、なんだか損した気分になるのだ。
だが損した気分になるのは、あんがい正しい感覚なのかもしれない。客が同じ貨幣を20枚以上使って支払いをしようとすれば、店側はこれを拒否して良いことになっているからだ。なんとこれ、法律で決められている(法律7条:貨幣については、額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する)。硬貨は別称「釣り銭」などと呼ばれるけれど、意味合いとしてはこちらのほうが正しい。
先日、レストランの会計をすべて一円玉で支払われるというイタズラが発生した。イタズラをしたのは高校生だが、店員はこれに動じず調理場からハカリを持ってきて、あっというまに会計してしまったのだそうな。「1円玉=1グラム」という特性を活かしたというわけである。法律にあるように拒否してよかったんじゃ、という声もある。
以上は話としては面白いけれど、仮に会計が1000円だったとして、わざわざ1円玉を1000枚かき集めて数え、レストランに持ち込むような手間をかけてるだろうか?という気がする。イタズラにしては、する側に労がありすぎるからだ。
1円貯金はしていなくても、500円玉貯金ならしている人はいるのではないか。かつてぼくもそのひとりで、10ヶ月かかったものの、貯金箱に10万円ほど貯めたことがある。6年前にたばこをやめたとき「タバコ買ったつもり貯金」を始めたのだ。あれはあれで達成感もあり、なかなか楽しめる。貯めたお金はいったんATMを使って入金し、後日10万円ちょっと出して、デジタル一眼レフカメラを買った。
同じことを1円玉でやらなくてよかったと思う。
レジで拒否られるからではない。
重さが100kgにもなるからだ。
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