原油生産量世界一はアメリカだった
前年度1位だったサウジアラビア、2位のロシアをごぼう抜きし、アメリカが逆転した。いまや原油生産量一位はアメリカである。増産に増産を重ね、前年度15%増しでトップに踊りでた。もちろんシェールオイルの増産である。テキサスやノースダコタあたりのアメリカ国内の油井(ゆせい=油田採掘の井戸のこと)数は倍増どころではない。2009年には200だったのが2014年には1600と、なんと8倍増しとなっている。時間はかかったが一度採掘され始めたら、もう止まらない。多くの利権も絡んでいる。政治的な思惑もあるのだろう。将来、軍事力だけでなく産油量でもアメリカ1強になる可能性だってある。
一日あたりの石油産出量 世界TOP5(単位:100万バレル)
出典: BP – Statistical Review of World Energy 2015
といった具合で、上位3国で世界総生産の40%を占めていることからすれば、もはや「産油国は中東」というイメージではないことに気づく。かつてOPEC(石油輸出国機構)が原油価格をきめていた時代もあったが、いまや見る影もない。
産油競争は さながら牛丼戦争のよう
原油がおどろくほど安くなったのは、産油国同士の過当競争である。景気が悪くなったからというわけではない。原油がダブつけば生産を減らし、足りなくなれば増産するなどして価格を調整していたサウジアラビアが、アメリカのシェールオイルの増産に煽られて減産できない状態。もともと両国は仲が良かったが、最近はすっかり疎遠であるのもこれが原因。利益度外視でシェアを確保しようと必死である。3位のロシアにしても台所事情は同じ。1バーレル40ドル以下ではまったくもって割が合わないが、シェアを失うことは政治力も奪われる。それで必死に食い下がっている状態である。ルーブルが暴落し、インフレ率10%で国内経済はもうボロボロである。
まるでかつての牛丼戦争のようである(という例えもどうかと思うが)。「吉野家」と「松屋」の低価格競争、そこへ「すき家」が参入!この「すき家」役がにあたるのがイラン。経済制裁が解除されれば、もとより日産390万バーレルの大型プレイヤーである。3者が互いにパンチしあってフラフラになっているところに、新たに敵が乱入してきたからさあ大変。再び相手を打ち負かせようと、殴りあう羽目になってしまった。
そもそも牛丼、いや、原油需要も思ったほど増えていない。世界は環境問題対策から省エネルギー化へ向かい、じゃぶじゃぶ消費するはずの中国など新興国もすっかり景気減速で元気を失った。だれもが「そろそろ原油価格を上げたいのだが・・」と思いつつ、「シェアが減るから自分からは値上げしない」と決めている。そのようにして、ついに30ドルを割り込んでしまった。こうなると比較的採掘コストの高いベネズエラやマレーシアあたりは、もはや太刀打ち出来ない。原油安は世界地図を塗り替える程のインパクトがある。
原油価格が下がる?
いいことじゃないか、
とあなたは思うかもしれない。たしかに石油の99%以上を輸入に頼る日本にとってはありがたい。数年前からの円安転換で、本来ガソリンなどは上がるところだったのだ。試算すればわかるように、原油が1バーレル100ドルから、30ドルに下がれば先進国全体で100兆円もの富がもたらされる。いいコトずくめだ。
特に航空会社はコストに占める燃料費の割合が高いから、石油が下がったぶん利益が激増した。空前の利益幅に沸きに沸いている。悪名高いサーチャージも緩和しつつあり、おかげで航空運賃もびっくりするほど下がった。いまや日本からヨーロッパまで4万円台、中南米、南アまで往復しても8万円台ですむという驚愕プライス。しかも円高傾向である。まさに海外旅行はいまが旬、GWは成田が大混雑必至である。
トラベラーにとっては追い風であっても、はたして日本経済から見てどうなのか? これがなかなか深刻である。もともと外国人投資家(大部分が中国や、オイルマネーで潤っていた中東やロシアあたりの投資家)が多く買っていた日本株。これを、自分たちのフトコロが寂しくなってきたからと、現金に戻し始めた。日本の日経平均株価が2016年に入って5000円くらい落ちているのも、日本から海外資産が逃げ出していることにも原因がある。しかも株式から現金に替えるとき、米ドルより安全だからと円が買われ、円高になる。マスコミや経済評論家の一部はすぐにアベノミクスや黒田バズーカの経済政策失敗のせいにするが、そういうことではない。円高を悪いことのように言う人が多けど、そんなことはない。国家破綻は自国通貨安によってもたらされる。日本はその逆である。アメリカは俄然強いけれど、その米ドルよりも円が買われるほど信頼されていると見るべきで、円高はデメリットなんかじゃない。
混乱の寵児はまた躍進しているはずだった中国。「実は言うほど成長してませんでした」とこれまでの虚威の報告に世界が落胆。市場がダメ出ししている状態だ。ていうかそんなのとっくにバレていて、外国資本が中国から逃げ出しはじめたのは数年前である。いま元は他通貨に両替され、国外にどんどん流出してる。いま中国行きの航空券がバカ安なのは「帰ってこいよキャンペーン」の一環なのかもしれない。
航空券が安い期間はあんがい短い?
市場が混乱するときはチャンス到来でもある。
これまで優位だったものが落伍し、劣位だったものが浮上する。驕れる者久しからずである。今年は個人的にも波乱の一年となりそうで、それはそれでなんだかワクワクする。燃料代によるコスト安とあれば、長距離ほど航空運賃に割安感がでるはずだ。つまり今年は長距離チケットが安い。日本からだと中南米や南アあたりが狙いめである。ラテンアメリカこんにちは! ただしJALやANA、エールフランスなど主要航空会社は2月現在、まだサーチャージを徴収中。予約するなら少し待ったほうがいい。各社4月以後に撤廃してくる可能性がある。もっともLCCや一部の中東系の航空会社はすでに撤廃しているようだ。SkyScannerなどで念入りにチェックしておこう。
とはいえ、今度は航空会社が行き過ぎた激安競争で消耗してしまうはずだ。ただでさえLCC参入で消耗戦を戦いつづけているうえ、ISなどのテロが起きる度に客が逃げる。いまは潤う一定の利益を、近く内部留保しようとする動きがてくるはずだ。ライバルは敵ではなく、共に市場を盛り上げる協業同士である。また頻発するテロを対策するためにかかるコストを空港使用料などに上乗せし、ひいては航空運賃値上げにつながるおそれも無視できない。
アメリカのシェールオイル増産がきっかけともいえる、今回の大騒動。
だが産油国の体力も限界だ。伸るか反るかの段階で、原油価格は揺り戻しが起きるかもしれない。原油価格割安のメリットとデメリットをしっかり見極め、ここはしっかりメリットを享受しておきたい。政治的思惑があるとはいえ、つまるところ原油価格は相場である。
下がれば、上がる。
永遠に下がり続けることはない。