ドイツではじめて夜のアウトバーンを運転したとき、その暗さにめまいがするほどだった。そのときはじめて日本の高速道路が明るかったことに気づく。おそるおそる80㎞/hくらいでとろとろ走っていると、後ろのドライバーからパッシングされたり、猛スピードで追い抜かれたりする。
なんてやつらだとそのときは思ったが、1時間も走れば目もしだいに暗闇に慣れていき、気つけば140km/hで巡行しているのだった。ヘッドライトが照らす範囲はおどろくほどせまいが、これで十分に思えるようになる。瞳孔も開かれて、まわりが暗いから瞳孔がじゅうぶん開いたのだろう。かえって運転に集中できるかんじがする。
ときおり、人生もそんなものじゃないかと思う。ひとはとかく将来がわからないとか、先が見えないからと不安になる。よこからなにか飛び出してくるかもしれない。上からなにか落ちてくるかもしれない。先が見えないことで不安にはなるが、見えたら見えたでよけい不安になったりもする。こういうのはホントきりがない。
暗闇のヘッドライト
迷ったときに道しるべになるのは、あんがい足元を照らすライトである。先などかまわず、しっかりと、目の前のことに集中すればいい。どうせ全体が照らされた道はない。遠くは照らせなくても、ヘッドライトは自分のいるちょっと先を照らしている。ちょっと先に行けば、それよりちょっと先を照らしてくれる。そうやってみんな無事に、旅を終えるのだ。そこに行けば次の旅も見えてくる。
いまは何でもすぐに知ることができる世の中だから、かえって不安になりやすくなるかもしれない。明るすぎるとかえって見えづらくなるのだ。月明かりにかすむ夜空の星のように。
迷ったり不安になったりするとき、ぼくは暗闇のアウトバーンを思い出す。ここまで走ってこれた。だからこれからも、いまいる場所からちょっと先を照らしながら、走るのだ。
Step forward !