1. 贅沢ができる
タイの物価は上昇しているとはいえ、日本から見ればまだ安い。しばらく4%前後で安定していたインフレ率も2015年は原油安の影響でややデフレ気味。とりわけ地方都市であるチェンマイは「これでたったの・・!?」と思わずにはいられない。物価の安い国や地域は他にたくさんあるけれど、外国人向け料金が設定されていたり、宿泊費やまともな食事は日本以上に高かったりもする。その点、チェンマイは旅行者に対しても料金をふっかけたりしないし、清潔なベッドや洒落たレストランでの食事も安くありつける。ドミトリー式のゲストハウスは1泊300円からあり、日本や欧米なら数万円するような高級ホテルの部屋が5000円程度で泊まれる。サービスだって悪くない。
全体的に物価が安いということは、ピンからキリまで選択肢が増えるということ。数百円の宿から数万円の宿へ。1時間470円のマッサージから高級スパの1万円まで、食事もそう。運転手付きのハイヤーを1日4500円で借りきり、好きな場所へ連れてってもらうこともできる。
トゥクトゥクは料金をふっかけられやすい でも独特のフォルムの車体はお気に入り できることなら自分で運転してチェンマイ中を好きなだけ走り回りたかったです
ソンテウ(乗り合いタクシー)の座り心地は悪いけど、なぜかお気に入り 旅行中、もっとも頼りになる足でした 向かいに座った他の乗客とにっこり微笑み合います 1回のると70円〜100円くらい
選択肢が増えることで自由度が増す。欧米や日本で1日、王様の気分で旅を味わえば10万円あっても足りないが、チェンマイなら2〜3万円で実現できるのがうれしい。
2. 身体がよろこぶ
ふつう旅先では気候や水質の変化、それから野菜不足などで免疫が落ちたりと体調をくずしやすい。その点、北部タイは野菜や果物が豊富に採れ、レシピでも多用されるから外食中心の旅先でも、自然に野菜や果物がたっぷり採れる。それがまた信じられないくらいに安い。
ぼくはふだんの旅にはサプリメントを携行するのだけれど、チェンマイではまったく用なしであった。とれたての野菜と果物をしぼったジュースが100円から150円でたっぷり飲める。水や氷、砂糖や添加物を加えない正真正銘100%である。おかげでみるみるうちに肌がつるつる、腸の中が空っぽになるくらいお通じがあった。
北部タイはまたハーブの宝庫でもある。
日本でも人気の「Herbbasics」の商品はここ、チェンマイで製造されています 上の写真はチェンマイ店 日本で買うより圧倒的に安いです
お茶にしたりアロマオイルにしたり。タイといえば古式マッサージ、ストレッチを取り入れ、コリがほぐれやすく効果も長持ちする。無理をしたりストレスをためると老廃物がたまるもの。中高年は新陳代謝が悪くなり、よけい排出されにくくなる。
タイ古式マッサージはセン(身体を流れるエネルギーライン)に沿って揉んでいく。足底やリンパにたまった老廃物はこうして排出されやすくなる。心臓から離れた足からはじめ、手、腕、背中、首、頭、顔へと移っていき、最後にストレッチで締める。終わった後でお茶が出されるが、これはかならず飲み干そう。30分以内にトイレに行けば、老廃物は体外にポイ捨てできる。
時間があれば2時間連続でやりたいところ。1時間は下半身、40分上半身、20分は頭部とストレッチというプログラムになる。お寺に併設されているところでは2時間やっても千円足らず。しかも腕はピカイチである。良いマッサージ師は寺にいるという噂はほんとうだ。街の店ではオカマには注意したいけど、それもまた一興である。
ともかく毒素が抜けて身体は大喜びである。ぼくは滞在中、ほぼ毎日やった。やるほどに老廃物が出ていくので、はじめ痛かった部分が痛くなくなってくる。
3. こころがよろこぶ
チェンマイの街はどこにいても花が目に入る。鮮やかな赤や黄色、オレンジ、紫、ブルー・・、陽光に照らされキラキラ輝く。逆光だと発光しているかのように見える。街を覆う圧倒的な緑も、空の青さと白い雲のコントラストに映えて美しい。家の中も店内もいたるところに花が飾られている。
花や緑は人の心に潤いを与えてくれる。
ぱさついた心ではとかく人間関係にも摩擦が生じやすいが、潤いがあれば余裕も生まれ、たがいを傷つけなくてすむ。日本のように季節のある国もいいけれど、一年中青々とした緑に囲まれたチェンマイが羨ましい。
古都チェンマイは寺院が多い。仏教やヒンドゥー教、オレンジ色の袈裟をまとった僧侶が街の景色にとけこんでいく。どの寺院も手入れが行き届き、寄進に人々の信仰心の厚さがうかがえる。
まだ子どもなのにこんなにも穏やかな顔でほほえむ僧侶たち
他国で見られるように入場料をとったりもせず、写真撮影も自由に行える。日本の仏閣に比べると建物も祀られる仏像も原色&金ピカの印象が強く、いささか神々しさに欠けるような気もしなくもない。けれども仏像の前で正座をし、手を合わせれば自然と心が落ち着き、気持ちがほぐれてくるのがわかる。それにしてもお堂を吹き抜ける風はどうしてこんなにも穏やかなのだろう。
よそ者でも抵抗なく入れます 静かに手を合わせれば自然にこころがおちつきます
境内には花が飾られ、庭はていねいに整備されている。タイ古式マッサージ場が併設されていたら迷わずやってもらおう。マットの上に横たわり、穏やかな風にあたり庭の大木の葉をやさしく揺らしているのをながめるのも至福のひと時である。遠い昔、あなたがまだ園児だったころのお昼寝の時間を想い出すかもしれない。眠りに落ちるときそよそよとこそばゆい感じがしたものだ。
左側の建物はマッサージ場 午前中ここでタイ古式マッサージをやってもらいました セラピストは肥って寡黙なおばさんがいい 技術は相当高いです
4. 懐かしい風景に出会える
チェンマイの旧市街は約2km四方の真四角なお堀で囲まれている。古い城壁の跡がところどころに残り、スプリンクラーが植え込みの緑に向けて虹色の水霧を作る。旧市街はふつうに車もバイクも走るけど、信号は一部にしか設置されていない。そのため道路を横切るときはちょっと緊張するけれど、事故はほとんどなさそうだった。他の東南アジア都市にありがちなクラクションの応酬もなく、よくみるとちゃんと互いに道を譲りあっているのがわかる。
道端の植え込み、軒先に飾られた陶器の象。庭から溢れかえる緑と花々。そんな中を24時間たったの170円でレンタルできる自転車にまたがり走れば、あたかもそこに暮らしているかのような錯覚を覚える。疲れたら木陰で休み、のどが渇いたらカフェのソファに座らせてもらう。
どんなに小さなカフェでも生ジュースは氷でむりに冷やしておらず、コーヒーの質も高い。カラコロと軽やかな風鈴が耳にここち良い。そういえば店内で音楽を流しているところは少なかった。おかげで小声でじゅうぶん会話ができる。それを遮るバイクやトゥクトゥク、ニワトリの声に昭和30年代を感じる。鳥の声に見上げれば、はりめぐらされた電線の上をリスがさささと走るのがみえた。
5. 人がやさしく治安が良い
チェンマイ市内には24万人が住むが、それ以外に多くの外国人長期滞在者や旅行者がいる。このくらいの規模になれば、たいていどの都市でも外国人を狙ったスリやポン引きが目立つものだけれど、チェンマイに限ってはほとんどみられなかった。一度でも立ち寄った店なら、店員はまるで常連客のように迎えてくれる。
ただ店の前を自転車で通っただけで、店内から手をふってくれもする。ぼくは旅行中よくものをなくしたが、そのほとんどは見つかることはなかった。だのにことチェンマイにおいては、なくしたものはたいてい見つかった。落とした場所にそのままあったり、拾って店で保管してくれるのだ。通りにカギをつけたままのバイクが停めてあるのも見かけた。街に警察の姿もほとんど見かけない。市内にりっぱな警察署はある。大晦日のカウントダウンのときだけ、申しわけ程度にちらほら見かけた。
ホテルの部屋に入ってきた猫 まったく人間に警戒するそぶりなし 動物も安心して暮らしている証拠ですね
年末、バンコクにISILメンバーが潜入したというニュースが飛び込んだが、チェンマイはどこ吹く風。こうなると安全なのか不用心なのかよくわからないけれど、これほど人々から悪意を感じることが少ない都市も初めてである。敬虔な仏教信者が多いのも寄与しているのだろう。
人混みにあってもみな整然と買い物を楽しみ、屋台の食べ物をぱくついています
ミャンマーとの国境に多くすむモン族の女の子たち
こんなチェンマイが物騒になるとすれば、とうに世界は終わりのような気がする。