イスカンダルへ

宇宙戦艦ヤマト』がテレビで放映されたのは1974年、ぼくが小学生のときである。あのころの日本はテレビにせよ映画にせよ、やたらと「滅亡もの」が流行っていた。「日本沈没」、「ノストラダムスの大予言」などがそうである。ゴジラシリーズでは「ゴジラ vs.ヘドロ怪獣ヘドラ」だったし、「猿の軍団」なんてのもあった。放射能で全人類が滅亡する地球を救うため、ヤマトがイスカンダルへコスモクリーナーを取りに行くというストーリーが生まれたのも、世相ならではだ。

公害と核戦争。そのどちらかによって人類は滅んでしまうんじゃないか?そんな漠然とした不安が当時の日本を覆っていた。いまその不安は「放射能」を共通軸として「原発事故」が継いでいる。

日本人にとってイスカンダルといえば宇宙戦艦ヤマト、これがマレーシアだとイスカンダル計画が喚起される。これはシンガポールと海を挟んだ対岸地域に巨大な都市を作ろうという計画で、ビジネスセンター、医療施設、大学、工業団地、湾岸輸送基地、高級住宅街、空港など5つのゾーンに展開し、2025年までに完成するというもの。シンガポールに比べれば、だいぶ割安なマレーシアの経済ギャップに、これからの伸びしろが期待できるということだろうか。シンガポールを香港に見立て、ちょうど深センのような役割を期待する人もいる。1990年、深センの人口は66万人。それがたった10年で600万人になった。

イスカンダル計画が展開されるのはジョホール・バルという地域だ。対岸のシンガポールの人口は530万人(うち外国人が4割!)。シンガポール政府は2030年には700万人を目指すと発表。同時にジョホール・バル側は現在の137万人から300万人まで増やすとあるから、シンガポールとあわせて1000万人規模の経済圏が20年以内にできるのだ。深センと違うのは人口増のなりたちが農村からの移動ではなく、外国から富裕層を呼び寄せようとしているところである。このため工業団地だけでなく、富裕層〜中流層が働く金融やR&D企業、貿易港、空港、大型の病院、はては007でお馴染みのパインウッド・スタジオがあり、子が学んだり遊べる欧米の一流大学やテーマパークがある。それらが次々に建てられ、営業を開始したりもする。


イスカンダル星 ・・いや、イスカンダル計画完了後のジョホール・バル(予想図)

シンガポール住民の中には物価高に悲鳴を上げてジョホールへ居を移し、毎日国境をわたってシンガポールへ出勤している人々もいる。だがマレーシア側とシンガポールを隔てる2kmの海に掛かる橋は、たった2本だけ。往復できるのはクルマだけで鉄道はない。そこにようやく地下鉄が走るのが2017年。さらにシンガポール=クアラルンプール間を新幹線でつながるのが2018年。鉄道とくればさらに不動産業界が色めく。

イスカンダル計画なんてドバイの二の舞いなんじゃないか? そんな声もある。毎年5%というマレーシアの経済成長率も、政府のいささかバラマキ政策に依存するところもあり、実質は大したことがないという説もある。そんな国家プロジェクトをどこまで信用すればいいのだろう? 世の中はなにかと世知辛い。ギリシャやスペインだけじゃなく、次は中国やブラジルが危ない。ロシアもだ。中東ではドンパチが始まりそうだ。唯一アメリカはシェールガスで復活するだろうが、日本はどうなってしまうのか・・ などと考え始めたらキリがない。

昨年買うことに決めたクアラルンプールの物件。だが今年に入ってキャンセルした。「出直し」ということであれこれ考え、冷却期間を置いて再びマレーシアへ行くことにした。それも、まだ建ってもない物件を視察するため。目当ての物件が完成するのは2016年と2017年。イスカンダル計画完了が2025年だからまだ先のことである。先行する事例でいろいろ学んでいるマレーシア政府はいくぶん慎重の構えもみえる。でもここはまあ乗ってみようと、まずは視察のためのチケットを取ることにした。

ということで次回は現地か?

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4 件のコメント

  • おはようございます、投稿は2度目ですが日記は毎日拝見させていただいております
    前回は確か本名ではなくCropという名前で投稿したと思います
    大阪府豊中市という場所で美容室を経営しています、私も先月ジョホールバルに視察に行きました。
    バンコク、シンガポールの後に訪れたのですがシンガポールから国際タクシーで30分足らずでジョホールバルに到着したので本当に通勤できる距離だと実感しました
    私も現地の物件を見せてもらったのですが、おおむね良い印象を受けました
    でも知らない場所にまだ建っていないものを買うのは少し勇気が必要ですね
    よろしければ又ご意見を聞かせてくださいね
    楽しみにしております

  • 前回のキャンセル、感心して読んでました。「お得」って結局無いですね。ましてや、お客さんに儲けさせる不動産やなんかあるわけないと。昔、ドイツ銀行の頭取の一人だったシュミット博士が日本大使館主催のパーティ開場でこう言っておられました。「XXさん、"今これが買い時です"っていう土地絡みの話があったら、100%無視した方が良いですよ。本物の1000マルク札をわざわざ800マルクで売ったりする不動産屋は居ないですから。皆、100マルクを1000マルクで売りたい連中ばかりですから。銀行だって一緒ですよ(笑)。」私は彼の名刺を持って行って、当時800社しか無かった本店で当座を開けたのでした。当時の基準は確か円で年商100億円〜だったような(大汗) … 私は未だに借家ですが居住面積300平米近くもあるし、どうせ墓まで金は持っていけないし、生きている内にパーッと使いましょう。「僕はこんななりですが、XXに不動産を持っている地主です」って札でも首から掛けて歩いていなければ他の人はどうせ分からないし、ローンを払いきらない内は「銀行の物」だし。

  • 「そおっと夜中に抜け出し、再びそおっと戻ってきてベッドに潜り込む」
    実はそんな距離なんだよなと思いながら拝読しました。
    日本に戻って10年以上経って、知らない間に、海外が遠くなっていることに気づきました。
    「喝っ!」を入れられたような気がしてます。
    「昔の同僚」さんが仰るとおりです。どうせ「墓まで金はもっていけない」のなら、一体何を心配して不安におもってんだろ???
    10年と少し前、シンガポールにいました。
    ジョホールバールはとんでもない田舎ぐらいにしか思ってませんでしたが、時間のスピードは日本の何倍も早いのかもしれないなと思わされています。

  • なおきんです。
    コメント返しがこんなに遅くなってしまいました。ごめんなさい。それではさっそく・・・
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    阿礼茂樹さん、一番ゲットおめでとさまです!
    同じくジョホール・バルへ視察に行かれたんですね。積極的資産運用を試みようとされる姿勢は素晴らしいと思います。海外不動産というと「いい話に騙される日本人」的な反応にもさらされますが、投資に対して信用を担保するという意味でHSBCやスタンダードチャーター銀行など世界有数の銀行の存在が大きいです。(逃げるかもしれない)外国人でもこうした銀行のローンが組めるということは、貸し手の信用力以上に物件のバリューを確信しているという証。彼らの調査能力と知り得る情報は、シロウト投資家や評論家ごときが学べるキャパを凌駕します。どの銀行がローンの融資をするかも、投資判断の一つの目安になるとぼくは思います。それからマレーシア政府は不動産の買い手と売り手の取引には、必ず中立的な弁護士を置き、その立ち会いのもと契約が進めることを義務付けています。こういうフェアネスさも、世界中からマレーシア不動産へ投資を促す動機付けになっていますね。
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    昔の同僚さん、「うまい話にはのるな」という忠告、そのとおりです。いつもありがとうです。ジョホール・バル案件はまだ検討段階ですけど、成功例、失敗例、実際に投資したひとそれぞれの話を伺うことができました。それぞれ意見が違ったり、同じ意見でもポジションの違いで微妙に差異があったり、まあいろいろです。ぼくは「住むなら借家派」で、買うのはあくまでも事業と同じく投資目的です。投資と言ってもぼくの場合、ほんとささやかですけど。年金受給など国に頼らない生き方を志すため、生涯事業として取り組んでいます。単に「儲けてやれ」とは一線をひいています。
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    たいさん、
    そうですね。あまりにも日本は居心地がいい。いや、本当はとても窮屈なはずなのにそこに収まっているということは、何かしら自分は飼いならされているんじゃないかと、骨抜きにされているんじゃないかという危機感がふつふつと。そんな感じかもしれませんね。ぼくは60以降、もし生きていれば、数年ごとに転々と住む国を変えるような生涯を送りたいです。囚われず自由にいたいと。そのための準備を、そおっと夜中に抜け出し、しているわけですね。まったく、困った徘徊老人になりそうです。

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    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。