中国では民間企業が国営銀行から融資を受けられない。しかも中国の大手国有銀行は4行。中国の民間企業は約300万社もあり、従業員は2億人もいる。ではこの300万もの会社はどこから融資を受けるのか?
シャドーバンキングである。
直訳すれば「影の銀行」と闇っぽいが、日本でいうノンバンクに近い。ただ経営者が曲者で、なんと人民解放軍の幹部たち、軍のお偉いさんだ。運営資金の調達は高利回りの金融商品、中国語で「理財商品」という。年の利回りは5〜10%(中国の大手銀行は3%)。利用者にしてみれば、割のいい資産運用である。定期預金ですらたったの0.2%程度の利息しかつかない日本人からみれば、夢のようである。100万円を1年預ければ、5〜10万円利息が入るのだから。複利なら7年預けて倍になる。
シャドーバンキングはまた、軍資金を増やすために不動産投資にも積極的だ。ホントにそこに人が住むのか?というよう場所にだってどんどん建てる。建てては転売し、利ざやを得る。そのこともあって、中国各地にはゴーストタウンのような新築マンションがどんどん増えていった。実需を伴わない投機目的だけの不動産が今後どうなるか? はじけるだけの運命だ。
そもそもなんで中国では軍が金融業をやっているのか? とあなたは思うかもしれない。先進国じゃ考えられないけど、人民解放軍は副業が認められているのだ。膨大な兵を食わすには金がいる。足らなきゃ自分たちで稼げというわけだ。そのようにして軍が運営する会社はさまざまあるようだ。かつてぼくが中国で取引をしていたインターネット会社もそうだった。その会社は軍の施設内にあった。2005年反日デモ直後ということもあり、ゲートでパスポートを見せたときはさすがに緊張した。イギリス人の役員も同行したが、なぜか彼は入れてもらえなかった。取引契約書に押された印のふちには小さく「広州軍区」と書かれていた。取引はついに行なわれなかった。直後、先方の担当者が更迭され、契約自体が反故になったからだ。ひどい話だが、幸運だったのかもしれない。
シャドーバンキングのきっかけは、軍事予算。人民解放軍の幹部は、毎年受け取る軍事予算の一部をまわして金融業を始めたというわけだ。ぼろ儲けである。国家予算をそんなものに使っていいのかと思うが、毎年2ケタ台で増える中国の軍事予算は日本など周辺諸国にとって驚異である。すべての軍事費が必ずしも人民解放軍の戦力増強につながっていなかったのだとしたら、それはそれでありがたい。いっそ全予算を副業に回して欲しいくらいである。
中国にはそんなシャドーバンキングが3万もあるという。増えたのはリーマンショック直後にばらまいた金融緩和がきっかけとも聞く。軍の暴走がささやかれ、実のところ習近平は軍を掌握できていないんじゃないかという噂もある。「軍に逆らう気か!」と習近平を怒鳴りつける将軍がいるとか。カネは同時に権力をもたらす。副業で儲かるにつれ、軍の幹部のふるまいも横暴になったにちがいない。
だがシャドーだけに陰りがでる。
陰ればあっという間に闇が訪れる。シャドーバンキングが扱う理財商品は何百兆円も残高がある。これを原資に不動産やさまざまな開発プロジェクトに投資し、300万社もの民間企業に融資してきた。だが不動産が下落したり不良債権が増えつづければ、やがて理財商品の高い金利は払う資金がなくなる。いくら戦闘機の整備費をちょろまかし、戦車をこっそり売って資金を調達するも間に合わない。おかげで4000機ある戦闘機は1000機しか飛ばず、戦車はハリボテとなったかもしれないが、それまでだ。
窮するシャドーバンキングの経営者、つまりは軍の幹部たちに中央政府(中国共産党)は、資金を融通する代わりに、これからは中央政府の言うことを聞けという条件を出す。なんだか本末転倒という気がしないでもない。
政府負担を減らすため軍に副業を認める → 軍はサイドビジネスを始め金融業でぼろ儲けする → 軍の幹部は権力をバックに政府の言うことを聞かなくなる → 軍の経営する商売がつまづく → 政府の救済処置を受ける → お礼に軍が政府に従う
という流れだ。
フツウ、ありえない。
そもそも中国というシステムに欠陥があるんじゃないかと思う。しかもいちいちスケールがデカいのが難儀だ。もともと共産党のための軍隊、それが力を持ち過ぎて党の統制がきかない。そこへシャドーバンキングのデフォルト騒ぎ。倒産すれば理財商品の元金を求めて暴動が起きるだろう。それは300万ある民間企業も同じ。貸しはがしに遭い、そこで働く2億人の従業員を路頭に迷わすかもしれない。元従業員やその家族はおとなしく路頭で迷うわけじゃない。空腹を満たすため、どんなことでもする。軍の幹部はしぶしぶ党中央の申し出を受ける。
2013年12月に北朝鮮の張 成沢(チャン・ソンテク)が処刑された。彼は中国とつながっていたと言われている。北京(習近平)コネクションと瀋陽(瀋陽軍区)コネクション、どちらのほうとつながっていたのか気になるところだ。国境で10万人規模の大演習があったというが、前者ならいまごろ中国は内戦へと発展したかもしれない。その様子はなさそうだから、おそらく瀋陽コネクションのほうだったのだろう。チャン・ソンテクの抹消は、すなわち瀋陽軍区がもつ影響力の低下を示しているのかもしれない。
理財商品で調達した資金は400兆円とも500兆円ともいう。なにしろ高利なのだ。償還する金利だけでも膨大な金額である。それを救済するとして、政府の人民銀行にどれほどの余裕があるというのか。こちらはこちらで不良債権を何兆円も抱え込んでいる。成長は鈍化し、海外からの投資も減るいっぽうの中国。おそらく救済は一時的なもので、すぐに効果が薄れるのではないか。
となると、次は軍の暴走とデフォルト(債務不履行)が同時にやってくる。
それがどういうことになるのか、ぼくにはちょっと想像できない。
できればこのまま想像したくない。
最近のコメント