「おじさんのくせに」と思われそうだけど、髪は美容院で切ってもらう。だから洗髪は上向きである。理髪店ではこれが下向き。ぼくはことのほか「下向き洗髪」が苦手である。洗い水が目や鼻に入りやすいし、それに斬首を思わせるものがある。ぼくが床屋でなく美容院に行くのは、ほとんどこれが理由である。このことを知り合いに話すと不思議そうな顔をされた。
家で洗髪するときも、もちろん上向きである。
しかもシャワーを背にして立ち、のけぞるようにして洗う。シャワーの位置が低いとマトリックスかリンボーダンスのようになるのだろうが、わが家のシャワーは位置が高いのでその心配はない。心配することじゃないのかもしれないが。
日本に戻ってきて、最初に感じたのはシャワーの位置が低いこと。とくに銭湯や温泉などでは鏡にむかって椅子に座り、全員が下を向いて髪を洗っていることにびっくりした。「びっくりするおまえにびっくりだよ!」と友人はいうが、ひとりくらい仰向けで髪を洗っている人がいてもいいじゃないかと思う。
むかし、美容院の店員に「なぜここでは上向きなのに、理髪店では下向きなのか?」と聞いたことがある。髪を洗われている顔を見られるのは恥ずかしい。だから本来なら下向きにすべきなのでしょうが、とその店員は言う。美容院は女性が多いから妊婦もいらっしゃる。だから圧迫感を与えないよう、上向きなのだと。なるほど、納得である。「斬首を思わせるからというのは?」念のため訊いてみたが、そういう人はお客さまが初めてですときっぱり言われた。ちなみにあなたは、上向き派? それとも下向き派?
下向き派の人は注意が必要だ。
熱いシャワーは皮膚を柔らかくする。その柔らかくなっているときに下を向き続けていたらどうなるか? 宇宙にはないが、地球には引力がある。皮膚が弛緩したところににもってきて、頭の皮膚までが下へ、顔のほうへだらんと垂れてくる。もちろん1回のシャワーがもたらす変化は微々たるものにちがいない。だが習慣というのは恐ろしいものだ。一回につき0.01ミリも垂れれば、一年で3.6ミリになる。もちろん若いうちは回復もする。だが回復の源コラーゲンは40代になると、20代のころの半分しか作られなくなり、その後も衰えるいっぽうである。そのうち10年で3.6センチも垂れてしまうかもしれない。加齢とともに顔はたるむ。しかたないが、わざわざ勢いづかせることもないだろう。
もしこれまで下向きで洗髪していた人は、気分を変えて今日から上向きで洗ってみてはいかがでしょうか? ついでに気分も上向きになるかもしれません。
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