なぜか「君が代」を嫌う人がいる。
ぼくもそうだった。まず辛気臭いというのがその理由で、「君が代の”君”とは天皇のことであり、それを崇拝するなどとんでもない!」と教えられた記憶もある。卒業式や入学式で国旗を揚げるとか揚げないとか、国歌を歌うとか歌わないとか、日本ではそれ自体が問題になる。新聞を読んでいれば自然と「国旗や国歌が軍国主義につながるのだ」と思うようになる。小学校のころはひんぱんに斉唱した記憶があるが、学年が上がるたびに機会が減った。強制もなかったし、必要とも思わなかった。
国歌に対しそんな不遜なイメージが反転したのは、国外に住むようになったのがきっかけ。ぼくは20代のほとんどと30代のすべてを海外で暮らしていたが、いつしか日の丸を目にしたり、君が代を耳にするたびに、なんとも言えない頼もしさをおぼえるようになった。清廉さと慈悲深さが感じられ、誇りすらわく思いがした。アイデンティティを強く意識したかもしれない。そのように周囲が自分と違うという環境に身をおいて、はじめて気づくこともある。ぼくの場合、国歌もそのひとつだ。
神話で日本を産んだとされる「いざなきのみこと」と「いざなみのみこと」という男女の神様。イザナキは男神でイザナミが女神。つまり「キ」は男をさし「ミ」は女性をさす。そういえばぼくの本名は「なおき」で妹は「なおみ」オカンは「きみこ」。こんなふうに現代の日本人の命名にも影響している。神話によれば天皇家直系の祖先は「天照大神(あまてらすおおかみ)」であり、その天照大神や日本を産んだのがこの二神とある。「君が代」の”きみ”が意味するところは、天皇も表すが、同時にこの国の男女を表わしてもいる。つまり「君が代は 千代に八千代に・・」とは「あなたと私は、未来永劫に・・」という意味にもとれる。少なくてもこの歌詞に軍国主義を思わせるものはない。
▲ 日本には「君が代」に反対するいろんな市民団体がある
「君が代」が登場するのは古今和歌集、じつに1100年も前の西暦905年に編纂された。古今和歌集はそもそも万葉集で選ばれなかった古い時代のものも混じるから、じっさい歌が書かれたのはさらに昔だったかもしれない。作者は不詳である。1100年以上もの間人々に歌い継がれ、鎌倉幕府のころは静御前がこれを歌いながら舞ったという。江戸時代は祝いの歌として愛され、明治に入って国歌に採用された。1903年ドイツで開催された「世界国家コンクール」では「君が代」が一等を受賞した。
1000年以上も前に作られた歌が、いかなる時代においても人びとに愛され続け、いまもこうして国歌に継承されている。すごいことだと思う。
戦後まもなくGHQの命令で、君が代が斉唱禁止となり日の丸が掲揚禁止となった。いまに続く「軍国主義の象徴」という疑いも、このときすり込まれたのだろう。だが世界のどんな国歌と比べてみても「君が代」は平和で穏やかな内容の歌詞にちがいない。
日本
君が代は
千代に八千代に
さざれ石の
巌(いわお)となりて
苔(こけ)のむすまで
これに比べ、各国の国歌歌詞はどんなだろう?
フランス
圧制に抗する我らのもとに
血まみれの旗ひるがえり
聞け、戦場にあふれるおびえた敵兵の叫びを
子供たちや妻の喉を掻ききろうとしている
市民たちよ
武器をとれ!
危険きわまりない戦闘の最中にも
我らが死守する砦の上
星条旗は雄雄しくひるがえっていただろうか?
赤き閃光を引く砲弾の降りそそぐ夜を徹して
おお我らの星条旗は
ゆるぐことなく
いまだ、そこにはためいていた
奴隷となりたくない人々よ!
我らの血と肉をもって築こう
我らの新しき長城を
中華民族
最大の危機に際し
ひとりひとりが最後の鬨(とき)の声をあげるときだ
起て! 起て! 起て!
我ら万人心を一つにして
敵の砲火をついて前進しよう!
武器を取れ!
武器を取れ!
大地に大海に!
祖国のために戦わん!
大砲に向かって進め、進め!
どれも「軍歌かよ!」みたいな歌詞である。
子どもたちに斉唱させて大丈夫か?と心配にすらなる。そんな国歌をさておいて「君が代だけが軍国主義を象徴している」などと言われても、なんだかピント外れな気がする。「歌詞こそおとなしいが、天皇を崇拝している部分が問題なのだ」という人もいる。やれやれ、ああ言えばこう言う。
イギリス
神よ我らが慈悲深き 女王陛下を守りたまえ
我等が高貴なる女王陛下の永らえんことを
神よ我らが女王陛下を守りたまえ
勝利・幸福そして栄光を捧げよ
御代の永らえんことを
神よ我らが女王陛下を守りたまえ
もはや国歌というより「女王賛歌」である。だけどイギリスに「我が国の国歌は女王ばっかり崇拝していてけしからん!だから私は斉唱しない!」とはならない。いたとしても、むしろ異端である。日本では教育者が率先してそんな異端者になっている事自体、世界でもめずらしい。ていうか、おかしい。
ともかく平安時代から歌われている「君が代」は、世界最古の国歌。マッカーサーが国歌斉唱を禁じたのも、それを妬んだのかもしれない。
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