妖怪で有名な水木しげる氏は戦場で左腕を失った。
バケツ一杯分の出血があり、切断された短い腕は顔より大きく腫れ上がり、傷口には大量の うじ虫が。さらにはマラリアにかかり42度の高熱が続く・・・と著書で語っていた。やせ衰え、髪の毛も抜けた。「死ぬのは時間の問題」と埋葬用の穴が掘られる。うじ虫は鼻の穴からも出てきた。
そんな目に遭いつつも水木しげる氏は奇跡的に復活。
復員後、残った腕で描いた「ゲゲゲの鬼太郎(原作:墓場の鬼太郎)」が大ヒットしてからは、ぼくたちもよく知るところである。治りかけた傷口からは赤ん坊の匂いがしていたと水木氏は言う。ではなぜ生き残れたか? 持ち前の運の良さと生命力、あるいは腕に湧いたうじ虫であったかもしれない。
うじ虫を使う治療法を「マゴットセラピー」という。
オーストラリア原住民アボリジニ族やミャンマーでは数千年前から用いられた痕跡がある。治療では除菌したうじ虫を患部にとじこめ、数日おきに交換する。桁外れの食欲を持つ うじ虫。ありがたいことに彼らは腐って死んだ部分ばかりを食べ、健常な部分は食べない特性がある。しかも抗菌物質を分泌し、ごていねいに殺菌消毒までしてくれる。ぐうぜんではあったが、水木しげる氏を救ったのもこれだった。たしかに戦場の兵士たちのあいだでは「うじ虫がわいたほうが傷の治りが速い」と噂されていたという。
1928年にペニシリンが発見されてからは、以後いろんな抗生物質が多用されることになる外科治療。だがそれはイタチごっこの様相もあり、より強い薬剤耐性をもつ菌にはより強い抗生物質が投与され、副作用もそれに応じてひどくなる悪循環となった。たとえば糖尿病によってひきおこされる足の潰瘍などに巣食う菌は抗生物質では退治できず、やむなく脚を切断することもある。もともと日本人、というかアジア人は歴史的に飢餓への耐性が強く、あまり栄養を摂らずとも生きられる体質である。だから欧米人並みに食べればそれが裏目にでる。見た目それほど太っていなくても栄養過多になりやすい。そのうえ運動不足とあっては、糖尿病になるのは宿命なのかもしれない。いまや6人にひとりが糖尿病であり、膨大な医療費で自分や家族、ひいては国の経済も苦しめながら毎年1万数千人が死亡している。
とはいえ、自分の傷口をうじ虫にむしゃむしゃ食べられる感触は、いかばかりだろう? ちょっと想像するのも恐ろしい。以前、足の角質を食べてくれるドクターフィッシュを試したことがあるが、あんな感じだろうか? あれが朝から夜中、寝ているときもずうーっとむしゃむしゃやられていると思うと、やっぱりぞっとする。
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まあ、切られちゃうよりマシだけど。
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