都合の悪いものは見せないようにして始まった北京でのAPEC。首尾よく終わり中国の面目躍如といったところか。習近平主席は安部首相の挨拶をわざと無視して握手を交わすなど子供っぽさが際立つが、この時期に北京を訪れようとした香港の民主派学生たちは政府に要らぬ刺激をしてはと自粛した。どっちが大人だがわからない。
香港の学生たちが道路で座り込みを始めて7週間が経つ。シートが敷かれただけだった路面は持久戦になるにつれ寝袋に変わり、やがてテントが張られた。ぼくが到着した11月9日の香港は雨もよう。壁や電燈をおおう張り紙ははがれ、つるされた黄色い傘の折り紙は雨にぬれ地面に落ちた。風に転がるテントもあった。その日も中国の出先機関に向け1000人規模のデモ行進があったという。かつて十数万人に膨れたデモ参加者を思えば、寂寞(せきばく)とした感がぬぐえない。
▲ 道路を覆い尽くすテントの列(香港島 金鐘)
▲ クルマの走らないバイパス道路(香港島 金鐘)
▲ 路面に書かれた「我要真普選」の文字(九龍 旺角)
「我要真普選(真の普通選挙を)!」
黄色い垂れ幕が立体交差点にぶら下がる。学生たちの要求はそれだけである。政府側との対話を求め、一度は実現したものの、その後なんら進展はない。出口が見いだせず、普通選挙を求める民主派は焦る。大半は学生やそれ以下の子供たちである。民主派とそれを支持する人々はイエローリボンを身に着ける。テントを張っての座り込みは香港島に2か所、九龍側に1か所ある。占拠された道路は車もバスも走れない。道路に面した銀行は店を閉めていた。いっぽう宝石店は開いており、客でにぎわっているのが印象的だった。
▲ 並べられたヘルメット(九龍 旺角)
商売、上がったりだ!
デモ占拠のせいで閉店を余儀なくされたり、そこが走れなくなったタクシーの運転手たちがデモ隊を排除すべく言動を荒くする。それは警察との利害もあう。デモ支持者のイエローに対抗して、彼らはブルーリボンの人たちだ。どちらかといえば旺角(モンコック)は、香港島側よりローカル色が強くワイルドである。デモ見学者も夜半の旺角は避けるようだ。
▲ 待機する警察隊(九龍 旺角)
道路がデモ隊に占拠されているせいで、手前でバスを降り、歩いて通勤する人たちもいる。そんな友人のひとりに「そりゃ災難だね」といえば、「健康にいいし、空気もきれいになった」と返ってくる。おまけに中国からの団体客も減って、いいとこずくめだと。ちなみに彼女はデモを見に行き、催涙弾の洗礼を受けた。「マスクして目にサランラップまいて防備してたけど、ほら暑いし曇るのよ・・」それで巻いたサランラップに風通しの穴をあけたという。さっそくそこから催涙ガスが入りこみ、皮膚をひりひりと痛めるのだった。「ありゃ生き物にかけるもんじゃないわよ!」と憤慨する。
▲ 何に集まっているのかと思えば・・
▲ トトロのとなりの習近平であった(九龍 旺角)
▲ ここにも習近平(九龍 旺角)
病院にも催涙弾にやられた患者がつぎつぎとやってくるが、医者はその対処法をよく知らない。香港はこれまでも中国のメディア統制に対抗し、たびたびデモが起きたが、催涙弾の使用は今回が初めてである。
中国本土では毎年、数十万件もデモが発生する。そこでは不当に逮捕されたり死人もでる。外国メディアの目が届かない辺境での制圧には実弾も使われるが、その熾烈さに比べれば「たかが催涙弾くらい」となるのかもしれない。ほぼ強引に封じ込めている不満層はいま、どんな引火でも燃え広がる危険性がある。香港デモ学生の要求を受け入れること自体より、「なんだ要求すれば通るんじゃないか」という実例を本土に持ち込みたくないのが、中国政府の本音ではないか。
▲ 雨にぬれる雨傘の折り紙(香港島 金鐘)
工場を止め、走る車を制限してようやくAPEC開催期間中の北京に青空を作ってみせた中国政府。やることがいちいちハリボテである。彼ら厚化粧政府が恐れるのは、あばた面を外国人にみられること。だから本土ではメディアを制限し、Facebookも禁止する。香港が幸いしたのは、どちらもまだ制限されていないことだ。試しにFacebookでデモのようすを現地からアップしてみたが、おとがめなし。出国時にからまれることもなかった。
中国政府が香港に対する無理な要求を抑止するのは、ぼくたち外国人の目である。プロパガンダに惑わされないマチュアなリテラシーである。APECも終わり、大勢の外国メディアが北京を去れば、政府は強制的な手段を使ってもおとがめないだろうと思うかもしれない。デモ隊によって社会の秩序が乱されたままでいいのかと、ヤクザを送って工作するのはこれまでも見てきたとおり。そうでなくても香港の12月は意外と寒いのだ。濡れた路面に薄いテント生地では学生たちの身体が心配である。
▲ 応援の寄せ書き. 日本語も(九龍 旺角)
▲ どさくさまぎれて痴漢もでたそうな(九龍 旺角)
▲ バス停はそのまま広告塔に(九龍 旺角)
▲ 風に転がるテント(九龍 旺角)
デモ現場には中国語・英語のほか、日本語の文字もあった。デモ参加で学位を落としてはと、中学生や高校生が勉強にいそしむ姿も見られた。それを見てやる大学生も。
がんばれ香港!
メディアが興味を失いそっぽを向いても、ぼくはしぶとく見守り続けたい。
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