ぼくにとって「飲み屋」とは、カウンターだけの酒場。ボックス席はなし。10人も入ればいっぱいになるようなお店。カウンターの内側には店主がひとり。陽気で人好きしそうなのだが、相応に陰をひきずる中年男。客は常連も一見さんもいる。店が狭いせいか、客同士の距離が近い。店主とも近い。
自分の名前でドメイン名をとり、それで個人サイトを立ち上げては歴史検証やエッセイなどのコンテンツをアップしていたぼくは、手にしたある一冊の本をきっかけにブログなるものを知り、試しにひとつ開設してみることにした。
ある一冊とは「はてなの本(翔泳社 2004)」というもので、おもわず手にとったのはタイトルがヘンだったからである。なにしろ「なてな」である。なんだそれ? それが会社名と知って興味がわいた。社長の近藤淳也氏の考えには共鳴するものがあった。
まさに飲み屋を開店するようなものだった。それがちょうど10年前の2005年2月。香港の高層アパートの一室でのこと。部屋の窓から海が見え、対岸には香港島が見渡せた。少し前に手首を痛め、マウス操作ができなくなったために購入したワコムのペンタブレット。文章だけでなく、せっかくなのでこれをつかって描いたイラストや、撮った写真を添えようと思った。
▲ 「香港イラスト写真日誌」で登場したばかりのなおきん。いまとはだいぶ違います. 【2005.03 】
▲ やはり初期の頃のなおきん. タッチがまだ定まっていません.写真とイラストを重ねる方法は初期ではよくつかってました. 【2005.03 香港イラスト写真日誌より】
ぼくの「飲み屋」を再現したようなブログ。ふらっと訪れたお客さんが気軽に話しかけてもらえるような、ツッコミどころのある内容やイラストがそこにある。主張ではなく会話。話してもいいし、見てるだけでもいい、居心地の良い場所。次に来るとき迷わないよう「看板」もしっかりデザインした。(PC版のみの表示だけど、看板はいまも同じデザインを引き継いでます)
▲ ロゴデザインは10年間のまま。イラストは季節ごとに変えたりしてましたが、ここ数年は固定です。
ひとり、ふたり・・
おそるおそる来店されるお客さん。開設したことは知り合いにもあまり話してなかったし、書きたいことも定まらなかったこともあり、出足はスローである。いまのようなイラストもなかった。小さなブレイクがあったのは2ヶ月後。いつのまにか翌月には1日のアクセスが3000を超えていた。
そのころのぼくは香港での仕事がうまくいかず、焦ってばかりいた。やっとこぎつけた中国広東省での大きな商談。だのに契約は不履行、ビジネスパートナーともしっくりいかなかった。それでもいくつか蒔いた種が実り、新たに日本とのパイプが生まれた。事業を拡大できる気配があり、自らの手で掴む必要があった。それで香港を引き払い、東京へ移る準備をした。実に25年ぶりの帰国だった。
これから自分はどうなるんだろう?という不安なさなかにイラ写は生まれ、事業開拓の可能性に誘引される高揚感とともに、読者が増えていった。2005年春、一生を通じてあれほど寝なかった時期はない。記事は毎日欠かすことなく更新した。コメントは一日数十あったが、その日のうちにぜんぶに返事をした。コメントあってのイラ写だったのだ。ブログ仲間も増え、オフ会を開いたりもした。仕事12時間、イラ写4時間、残る時間で食べて飲み、バンド活動をし、余った時間で眠りについた。
事業を拡大するために東京に移り住んだことをきっかけに、「香港イラスト写真日誌」は、いまの「東京イラスト写真日誌」に引き継がれた。まさかこのとき東京で泥炭の苦しみを味わうとは想像すらしていなかったのだけど。ひどい借金を抱え、それでもなんとか返済を終え、経営していた会社を人に譲り、自分は勤め人となった。そんなあいだもせっせと記事を更新し続けた。いま2006〜2007年の記事を顧みれば、そこはかとなく胸の内を吐露したような記事に出会う。
▲ その時のイメージ. 【2005.06 香港イラスト写真日誌、最終回より】
さすがに10年前と今までの変遷により内容やテーマも様変わりする。そんな中にあって、コメントをいただいた読者のハンドルネームはいまもしっかり覚えている。イラ写を支えていたのはあなたであり、その他の読者であってぼくでない。本気でそう思う。ブログの記事はただのお題であることに変わりはない。10年前から変わらない。
数年前まではアクセス分析などもしていたが、昨年イラ写が炎上したことをきっかけに基本に立ち戻った。数などどうでもいい。あなたがいてぼくがいる。「その他大勢」なんて、いないのだ。
それにしてもすっかり更新頻度が減ってしまった。申し訳ないです。コメント返しの反応も鈍い。めんぼくないです。それでもまたアクセスしていただきとてもうれしいし、ありがたいです。
これからもよろしければ
イラ写におつきあい下さいね。
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