どうしてこうもAppleなのかと思う。
なぜ、ソニーじゃダメだったのか? はたまたパナソニックじゃなかったのか? iPadを心待ちにしながらぼくは一方で、いつも時代を変えるのが日本でなく米国発であることを残念に思う。 21世紀になっても、日本人はあいかわらず黒船にたたき起こされるのだ。
今年2010年度のことを「電子出版元年」などという。
電子ブックとして期待されるiPadがもうすぐ日本でも発売され、冬にはAmazonのキンドルが発売されるからそういうのかもしれないが、電子出版なら日本はとっくの昔にやっていた。 ケータイ漫画がそうだし、Nintendo DSでも小説が読めていた。
さかのぼること1998年、日本はすでに『電子書籍コンソーシアム』という団体を立ち上げ、「これから本は電子デバイスで読む時代」という旗を振ろうとしたのだ。 小さな組織なんかじゃない。 150社もの出版会社とデバイスを開発する電機メーカーが揃っていた。
書籍の電子化、それを再生する電子デバイスなど、これからの書籍のあり方を、米国よりもずっと前から進めていたのだ。
しかしこの団体、21世紀を待たず解散となった。 なぜか?
肝心の流通に、メスを入れられなかったのだ。
イノベーションを阻むガンはそこにあったのに。
本の流通の仕組みを知っているだろうか?
著者が本を書き、出版社が編集・出版し、取次(とりつぎ)が書店網へ流す。 書店がそれを店に並べ、読者がそれを買う。 昔からずっとこの流通方式だ。 変わらない。
「Amazonなどのネット通販は出版社が直接売っているのでは?」
あなたはそう思うかもしれない。 がしかし、ここでも取次を介して流通しているのだ。
取次・・彼らこそ書籍流通の首領(ドン)である。 たとえ出版社は本は作れても、取次なくしては本が売れないことになっている。 なぜだかは知らない。 おそらく役割分担というものなのだろう。 出版社は本を出版する人たちであって、売る人たちではない、と。
けれども電子書籍となればコンテンツ(本)はネットから電子ブックにダウンロードすればすぐに読める。 書店が要らない。 だから取次も要らない。 マッチ売りの少女は必要なくなり、タイプライターは売れなくなった。 それが時代というものだ。
日本ではまだ20世紀だったころに、そのような時代を迎えようとしていたのだ。 が、失敗した。 電子書籍は売れず、『電子書籍コンソーシアム』は2年で解散となった。 なぜなぜなあに?
もっとも要らない人たちがこれに加盟していたからだ。
取次である。
彼らは真っ先に反対した。 あたりまえである。 本の流通が変われば自分たちに存在価値がなくなるからだ。
おかしなことが起きた。 まず「コンテンツをダウンロードするのは本屋でおこなうこと!」とされた。 電子書籍といえども、本は本屋で買うものだというわけだ。 それから新刊は60日経たなければ、電子出版できないというルールができた。 あるいは購入した電子書籍は60日後に勝手に消去された。 あんまりである。 新しい本が読みたけりゃ、まず紙の本を買え、というわけだ。
当然、誰もそんなもの欲しがらなかった。
メーカーは開発費を回収できず涙ながら撤退した。 出版会社も新しい販路を失った。 著者は印税を取り損ねた。
みんな泣き寝入りしたのだ。「取次」を除いては。
最悪である。 ごく控えめに言って
もちろん電子ブックそのものにも問題があった。 重さは800gもあり、バッテリーは2時間しか持たなかった。(キンドルは重さ290gでバッテリーは1週間ももつ) けれどもそんなものは、日本メーカーならいくらでも改良を重ねクリアできたはずだ。
もちろん米国でも似たような流通があった。
既得権を持つ者たちに、根気よく説き伏せたのがアマゾンであり、アップルである。 やや強引に推し進めたのがGoogleである。 日本には、そんなプレーヤーがいなかった。 スティーブ・ジョブズも、ジェフ・ベゾスもいなかった。
それだけだが、小さくない「違い」だった。
先行していたにもかかわらず、完全に出遅れた。
紙の本はなくなることはないが、ひとの本を読む時間は変わらない。 それからおこずかいも突然増えたりはしない。 だけど電子で流通するぶん、印刷物は減る。 価値を提供できない者は市場に長くいられない。 これは時代のせいではなく、ものの道理である。
時代がどちらの味方につくにせよ、クリエイティブに生きようとする人たちにとってはより快適で、過去の遺産しか食いぶちのない人たちにとっては不愉快なものになるのだろう。
『電子出版元年』という言い方をあえてするならば、それはむしろ書き手にある。 電子出版はある意味、今までの作家からひな壇を奪ってしまうのかもしれない。 誰でも自分の書いた本を売ることができるようになるからだ。
自分が書いたものをアマゾンやアップルストアで売るのに資格もコネも、さらにはお金も要らないのだ。 取次はもちろん、出版社すら要らない。 プロもアマチュアも同じ商品棚に並べられるのだ。 つまり、名も知れぬひとでも、本を売って生活することが可能になった元年である。
それが、どれも米国発であることが残念なのだけど・・
音楽業界が、移動通信業界が、そして出版業界ですらも。
だいじょうぶ、あなたはきっと時代が味方してくれるほうです
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