映画のタイトルである。
ぜひ観たいと思っていたが、封切りされて1ヶ月以上経つ。半ば諦めつつ恵比寿ガーデンシネマに足を運ぶ。幸いなことに映画はまだやっていた。かつてこの映画館は劇場館内飲食禁止だったはずが、改装後は可能になっていた。コーヒーが美味しい。シートも広くゆったりできる。傾斜が浅かったのも改善された。
始まってまもなく気づくのは、映画というより、美術館で絵を鑑賞している気分になっていることだ。 登場人物はおしなべて顔色が悪く、例外なく欠けることなく全身が映されている。上半身だけも、顔だけも、ない。ついでいえば、笑顔も、ない。だがコントである。売れないセールスマンのサムとヨナタン。しかもヨナタンは泣き虫だし、ふたりともニコリともしない。「面白グッズ」を売り歩いているのに、それがちっとも面白くない。
ようやく売れたぶんの商品代金を取り立てに足を運ぶも「来週払うから」と逃げられ、あげくカネがないから払えないと言われるふたり。商品は「吸血鬼の歯」や「笑い袋」、「歯抜けオヤジマスク」である。それで「皆さんに喜んでもらいたくて」とヨナタンはいう。だが本人も含め、だれも喜ぶものがいない。
絵ぜんたいが、マットペイントというか淡いグリーンのマスクがかかっているせいか、目にやさしく、おだやかで、つかれない。映像というよりは、なにかこう紙に印刷された人物が動いているという感じだ。無表情なのにとことん人間臭い。現代のカフェにとつぜん馬に乗ったスゥエーデン国王カール12世が側近をつれて登場する。カウンターで水を飲み、ハンサムなバーテンダーを戦場に誘う。
ダンスの先生は教え子にセクハラをし、あげく誘いだしたレストランでふられてしまう。どのシーンも絵画のように美しいのだが、全体のトーンはあくまでも暗く、北欧ならではの空気感が寂しくただよう。あの色合いはどうやったらでるのだろう?どのシーンもいまどき珍しいアナログ撮影で、すべてスタジオで行われたそうである。
▲ さっきの先生と教え子は右の店内に姿がみられる
原題はスゥエーデン語で “En duva satt på en gren och funderade på tillvaron” 直訳すれば「物思いにふける枝の上の鳩」である。英語タイトルは「枝の上の鳩」とあり、おそらくは冒頭のこんなシーンから来ているのだろう。
▲ 博物館で鳩の剥製を眺める男と妻らしき女
映画はなんの脈絡もなくこのシーンから始まる。そしてこのシーンがなんだったのかわからないまま100分が過ぎ、エンドロールとなる。観客はみなこのふし穴のような目をした男さながら、スクリーンから目が離せないまま過ごす。おそらく観ているのは鳩のほうなのだ。鳩が人類を観ている。物思いにふけながら。それで邦題は「さよなら、人類」である。このタイトルもよくわからない。わかるのはこの先、折りにふれ、これらのシーンを思い出すにちがいないという確信だ。
この映画はクセになります。
覚悟してみることをおすすめします。
映画『さよなら、人類』予告編 – YouTube
今日の拾いもの リュ・ファヴァー “Rue Favart”
恵比寿ガーデンプレイスそばにあるカフェです。特徴はなんといってもお店の内装。とくに3階の天井に描かれた昆虫に圧倒されます。
TOP写真はこのお店で撮りました。営業時間 11:30〜23:30 年中無休
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