「枕が変わると眠れなくって・・」
何かのたとえだと思っていたら、実際ぼくの周囲にそんな人たちがいる。 中には出張や旅行には枕を持参するという強者もいた。 この枕、特注だそうで、10万円もしたのだという。 「それはちょっと高すぎるのでは」と思わないでもないが、考えてみれば人間は年間で2000時間くらいは寝てるのだ。 これのおかげでぐっすり眠れるのなら、費用対効果的にはじゅうぶんかもしんない。
さすがにぼくは枕ごと旅には出ないけれど、チェックインしたばかりの旅先の部屋ではわりとせわしなく動きまわる癖がある。 バスルームをひとしきりチェックし、クローゼットを開き、棚の引き出しを開け、冷蔵庫を開けたり閉めたりする。 サイドテーブルの電気をつけ、また消す。 窓の具合を確かめ、お札が貼られていないかどうか額縁をひっくり返したりする。 そうしないわけにはいかないのだ。 スパイ映画で、部屋に盗聴器が仕掛けられていないかどうか探索するシーンがあるが、まああれに近いかもしれない。
いまはそれほどでもないけど、20代の頃は極端であった。
つれあいと一緒の時には「なにはしゃいでんのよ、田舎者っぽいからやめて!」とよく叱られたもんである。
たまりかねてドイツ人心理学者に相談させられたところ、どうやら「新しい環境に慣れようとする行為」のひとつであるらしかった。 どちらかと言えば感受性の強い人ほどそうするらしく、一刻も早く周囲に順応させ、緊張感をほぐしたがる傾向があるらしいのだ。
「知的好奇心」と「慣れようとする行為」のエネルギー源は同じ。 片方が強いともう片方も強くなる。 こうしてバランスを取り、精神的な緊張状態が持続されすぎて心身ともに疲れ過ぎるのを防いでいるのだという。 なるほどうまくできている。
新しい部屋や場所であちこち歩きまわりチェックして回るなどの「探索行動」は、いわばその人の生存本能に近いのかもしれない。 新しい状況においてできるだけ不明な部分を取り除き、精神的な緊張状態を和らげたいとする本能として。 ぼくの場合はできるだけ速やかに「慣れ」ようとして、余計「せわしなくなった」のかもしれない。 わざわざ過去にさかのぼって、言い訳がましいけど。
でもこういう男とホテルに入る女性は相当興冷めしちゃうかもしれないなあ、とも思うし、実際興ざめさせちゃったこともあるんだろうと思う。 いまとなってはもうずいぶん遠い出来事だけど。
大人になるにつれ少しずつ感受性が失われるのは物悲しいけど、きっとそう悪いことばかりじゃないのだろう。
ですよね?
知らない「空白部分」を埋めるのも旅の醍醐味のひとつですね
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