北アフリカにあるチュニジアは一国で3度おいしい国だ。
白い地中海古代遺跡、サハラ砂漠、アラブのエキゾチズム。
旅行をするには最高である。
北アフリカ-中東諸国のなかでも、チュニジア人は比較的温和な人が多い。みやげ屋の店員なんかもあまり物を売りつけようとしないし、料理も典型的なアラブ料理だけど辛くて美味い。 物価だって信じられないくらい安い。 個人的には「また訪れたい国ベスト10」のひとつである。
▲ 風光明媚な観光国でもあるチュニジア
▲ まるでギリシャのような風景もみられる
それからもうひとつ。
旅行者として比較的チュニジアが居心地良かったのは、他のアラブ諸国に比べてあまり宗教色が強くなく、政治的にもリベラルであったということだ。 どことなく欧風的な雰囲気を持ち合わせてもいた。 ちょうど革命前の、あのイランやレバノンのように。
さて、そんなチュニジアで暴動が起きて政府が転覆した。
発端は物価高騰と失業問題で生活が苦しくなった民衆が蜂起、23年間この国を支配していたベンアリー族の腐敗ぶりに矛先が向いたというわけだ。 ベンアリ大統領は直ちに軍に命令し、反政府デモを発泡によって鎮圧しようと試みる。 がしかし軍の指揮官はこれに反逆し、反政府側に立ってしまった。 というのが大筋である。 これらの事件はチュニジアの国花にちなみ「ジャスミン革命」と呼ばれる。
▲ 行政への不満が大規模暴動へ(チュニス)
ジャスミン革命。
そのかぐわしい名前とは裏腹のきな臭さ。 いまぼくにとって、もっとも関心の高い事件である。 風光明媚なチュニジア、しかしいつしかとんでもない火薬庫になってしまった。
チュニジアはアラブ諸国のひとつではあるが、どちらかと言えばリベラルでイスラム色があまりない国だ。 首都チュニスはまるでフランスの地方都市のように洗練されていたし、古代都市カルタゴは日本人がふつうにイメージするギリシャのようでもある。
比較的おだやかな国民性も、しかし一度火がつけば燃え上がる。 物価高騰と失業問題のダブルパンチ。 犯人探しはやがて政府へと行き着いた。 チュニジアは中流層が多い。 インターネットやケータイだって当たり前のように普及している。 今回の民衆の蜂起も、ウィキリークスでベンアリ政権の腐敗ぶりを多くの人が知ることになり、ツイッターやフェイスブックで参加者を集って一致団結、デモや暴動へとかりたてた。
通常のクーデターならば新政権の骨幹をなす閣僚は刷新されるが、ジャスミン革命はただの民衆蜂起だ。 だからベンアリ政権に代わって用意されるべき政権がない。 大統領亡命後に暫定政権が立ち上がるも、それは国民の望む政権ではなかった。 閣僚はベンアリ政権そのものだからである。 またたく間に解散。 もたらされたのは無政府状態である。 おそらく混乱は長期化するのだろう。 民衆は行政に頼れないとあきらめ、精神的な安定を求めてモスクに集まる。 これがイスラム主義へと傾倒していく一歩となり、近くイスラム革命の火種となる。
思い出すことがいくつかある。
イラン革命(1979)とレバノン内戦(1975)だ。
ジャスミン革命は、一国のただの政権交代なんかじゃすまないのだ。 似たようなほかのアラブ諸国に次々と伝播する可能性がある。 さっそく兆候を見せたのがエジプトとイエメン。 いずれも長期政権が腐敗しているし、米英欧の影響が強い諸国でもある。
エジプト政権が転覆しイスラム革命なんかが起こったら、それこそ世界が転覆してしまう。 それほどのインパクトなのだ。 世界同時イスラム革命なんてことが起こるかもしれない。
▲ 実は中東アジアの火薬庫?チュニジア
イスラム諸国の増加。 中東からの米英欧勢力の排除。
これが何を意味するか?
イスラエルの孤立である。
レバノンのヒズボラの支配、トルコとの摩擦、パレスチナ国家の存在感、ただでさえイスラエルにとっては分が悪い。 この上、エジプトやヨルダンなどの米英の傀儡政権たちがこぞってイスラム側に回れば、反イスラエルで団結するはずだ。
米国の後ろ盾を失ったイスラエルは暴走する可能性がある。
戦争になればイスラエル軍はやたら強い。
それは数次の中東戦争で証明済みだ。 核兵器だって持っている。 自国が滅亡するほどの危機を前にこうした国がなにをするかと言えば、これはもう核戦争である。
事実イスラエルは過去何度も核を使おうとし、アメリカなどになだめられて止めている。
中東で核が使用されれば、日本経済は吹っ飛ぶ。
世界は大混乱に陥る。
こうなると俄然、2012年ハルマゲドン説が浮上してくる。
あり得ない預言も、利用するものにとっては格好のエサになる。 預言は当たるのではない、意図するものに利用されちゃうのである。
新聞の片隅においやられ日本ではあまり報道されないジャスミン革命。 ツィッターやフェイスブックが利用されたことから欧米では「ツィッター革命」なんて揶揄されるけど、そんなのんきな話しではないのだ。
その行方次第では、ぼくたちの日常を一変させるほどの劇薬だ。
ぜひ、これからも行方を注視したい。
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