仕事に行く気力はまったくなかったがそうもいかない。
朝5時、たたきつけるようにアラームを切り、
ベッドから身を起こす。
まだ7時前だというのにプラットフォームにはすでに列。
嫌な気がした。
やってきた列車にはすでに寸分の隙間もない。
同じドアから4人ほど乗れた。よく乗れたものだと思う。
鼻をかすめて扉が閉まり、前髪を数本、外に残した。
多摩川を渡る橋の上でぼくはドアに顔を押し付けられ、
ミシミシと鳴る不気味なドアの音に肝を冷やした。
身を躍らせ数十メートル下の川に落下するところを想像した。
あちこちでうめき声が聞こえる。
それでも誰かを責める声はひとつもなかった。
右足は浮いたまま、左手はつり革をつかめず宙を舞う。
到着するまで1時間以上、じっと目をとじ、巨大津波を思う。
日本人の誰もが無傷ではいられないのだ。
ただでさえ通勤ラッシュ。その上電力が足りない。
電車の本数は通常の5割〜7割まで減らされた。
人口はそのままだ。混まないほうがおかしい。
▲ サハラ砂漠のラッシュアワー(リビア)。東京とどっちがマシだろう?
会社につくと、やるべきことは山ほどあった。
いくつか緊急会議をやって、空腹を感じ時計をみると
すでに3時近くなっていた。
途中、なんどか緊急地震警報のアラームが鳴る。
余震がビルを揺らすが、かまわずメールをうち電話をかける。
そのようにして、気づけばオフィスに残る人はまばら。
辺りは暗くなり、運休していた電車も動き始めたらしい。
東京電力は混乱していた。やむを得まい。
停電をすると言ったり、やらないと言ったり、でもやった。
被災者の集まる避難場所でも計画停電してしまったという。
同じ頃、都内のパチンコ屋ではこうこうと電気がついていたが。
誰かに頭を押さえつけられているような圧迫感。
それなのに、日本人は
未曾有の危機に直面しても、誰かをののしることをしない。
その代わりに「何か自分に出来ることは?」と口にする。
これほどの絶望の中で、あれだけの秩序を保てるのだ。
嘆くのは自分自身の無力さのみ。なんという国民性。
冷たい濁流のことを、忘れないでいようと思う。
逃げ切れなかったの人たちのことを。
明日はもっと早く起きて、5時には駅へ行こう。
最近のコメント