福島原発に残る東京電力社員の捨て身の働きに加え、
東京消防庁や自衛隊、警視庁機動隊の放水活動があり、
日本はいま、ぎりぎりのところで助かりつつある。
本当にぎりぎりだった。まだ予断を許さないとはいえ。
原発事故の事象評価尺度(INES)では「レベル5」。
定義は「所外へのリスクを伴う事故」だという。
ともかく、チェルノブイリ原発事故(レベル7)よりは低い。
自ら被爆することをためらわなかった英雄たちのおかげである。
北北東に向かって直立し、頭を垂れる。
福島で救援活動をしている消防士の友人と電話で話した。
暗いうちから働きはじめ、夜中にようやく身体を横たえる日々。
震災以来ぶっ続けで働き、20日やっと一日休みがとれたという。
「ひさしぶりに家族と一緒にチャーシューメンを食べました」
そう明るくしゃべろうとするが、声がつまる。
毎日食べているのは、前の晩に隊員が握った、冷たい塩むすび。
放射能汚染の影響で、妻と幼い子供は神奈川に避難している。
ラーメンは、家族とつくば駅で待ち合わせ、食べたのだと。
瓦礫の山の被災地で見つかるのはご遺体ばかり。1日9体もだ。
気持ちはすさむ。励ましあう声もかすれる。たが休めない。
「落ち着いたら、東京でいっしょに飯を食おうな」
想像を絶する光景を、連日まのあたりにしているのだ。
何もできないぼくは、そう言うのが精一杯である。
罪悪感に襲われるが、いったいぼくは
何に許しを乞おうとしているのだろうか?
おそらくぼくは、軽い興奮状態にあるのだろう。
見渡せば多くの日本人が、世界の人達が
同じように興奮状態なのかもしれない。
物資不足や都市混乱に不平をいわず、
節電に募金に救済に、身を呈することをいとわない。
むしろ「もっとやりたい」とすら思う。どんどんやるべきだ、と。
それが高じて、非協力な人や不貞な行いをみつけては苦言する。
こんな時勢にフトドキな野郎め、こらしめてやると。
戦時中は軍部によって言論統制された、と歴史は教える。
だが、実態は民衆ひとりひとりの自主規制が元であった。
自主規制が世論となって渦を巻き、異論を封じ、自由を封じた。
「国難を前に全国民ひとりひとりが一丸となって・・」
1941年も、いまと同じことを言っていた。
そのような善意も悪意も同情も、長くは続かないものだ。
人間は、軽い興奮状態をいつまでも維持できないからだ。
いまでこそ、毎時毎時、報道番組がお茶の間を賑わせ、
ACの広告が「ぽぽぽぽ〜ん!」を繰り返すが、
人々の関心が震災から離れるやいなやテレビは普段に戻る。
芸人もバラエティ番組も、パチンコのCMも戻ってくる。
過去の大震災や同時多発テロになかった電力不足と放射能漏れ。
発電所は失ったままであり、これからさらに失う可能性がある。
被災者は家を失ったままであり、それはこの先何年も続く。
日本の復興は、期待するほど目覚しくもないかもしれない。
軽い興奮はやがて冷めていく。恋愛と同じだ。
ひとは移り気で、一度に多くのことを考えられないものだ。
震災の報道は夏には激減し、しだいに人々の関心は薄まる。
暖房はガマンした。だが夏の冷房もガマンできるだろうか?
冷えたビールは手に入らないかもしれない。氷もだ。
いまでこそ被災地を思えば、ご馳走を前に箸が止まるが
この先ずっと、そうだろうか。
なんでこんなに我慢してなくちゃならないんだ!
いつまで募金をし続けなくちゃならないのか。
そう思わない確信が自分にあるだろうかと自問する。
自己犠牲は、すればするほど、後の反動がおそろしい。
ひとはそれに酔うことがあるからだ。恋愛と同じく。
いまぼくたちが持っている危機感、善意、他者への思いやり。
必要なのはこれをこの先、止まらず持ち続けることだと思う。
多くの決死の努力のおかげで、日本にも春が来るはずだ。
しかし夏もやってくる。別のことも起こるかもしれない。
▲ リビアで戦争が始まった(写真は攻撃に向かうフランス機)。欧米では震災どころではないかもしれない
軽い興奮があるうちは、多少の苦難だって超えられる。
興奮が冷めてもなお、苦難を受け入れ続けられるだろうか。
日本全体が、3.11より前に復興するには最低でも5年。
あるいはもっとかかるかもしれないし、
二度と戻らない人だって、少なくない。
それらをすべて受け入れて、
いまどうすればいいのかを考える。
これからどうするのかを考える。
長期戦である。
夏も、来年も、そのあとも・・・
覚悟を決め、今の気持ちを忘れないでいたい。
▲ ありがたい話だ。問われるのはいつまで祈り続けられるか、だ。
3月21日現在、ニューヨーク・タイムズ、英BBC、中国青年報、英ガーディアン、abcニュースなど海外主要メディアで、福島第一原発に留まり決死の作業をした東京電力社員50名に「Fukushima 50」という勇士名称を使い、賞賛の報道がなされています。「彼らがこのような尊い行動に向かって行くことができるのは、日本がカミカゼ(KAMIKAZE)を生み出した国だからだ」と。abc newsより Fukushima 50 Brave(福島50人の勇士たち)
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