レベル7のバタフライ

風評のあるところ、風評被害あり。
風評被害のあるところ、風評加害あり。

福島原発事故の国際評価尺度(INES)がレベル7に格上げされた。
レベル5からレベル7への危険度2段アップ。
宮部みゆきの小説じゃあるまいし」と思う。
レベル7というのは世界最悪の原発事故だったチェルノブイリ原発と肩を並べたということだ。だがあちらの方は事故の原因からしてずさんだったし、漏れ出た放射能の量から、非人道的な火の消し方から住民の避難のさせ方、公開情報の不透明さにいたるまで、それこそ福島とは桁がひとつ違うほどひどかった。

とうぜん国内から抗議のひとつも出ると思いきや、意外にも「ほらやっぱり政府は隠していた」「はじめからわかっていたことだ」「何をいまさら」という声ばかり。「菅おろし」のネタにしたい思惑を差し引いても、あまりある反響ではないか。

レベル7への格上げを発表したのは東京電力であり日本政府だ。
おかしい。このことで貿易など国際商取引に多くのマイナスが生じるのは必至。日本からの物資には放射能検査を義務付けるなど、すでに世界の厄介者扱い。その上「危険度2段階アップ」のメッセージは、事故処理は改善どころかひどくなっていると世界には伝わり、厄介者度はより高まるだろう。今後は輸入制限だってかけられるかもしれない。復興の兆しがさらに遠のく。自国をそんな風に貶める政府などいない。

おそらく米国からの圧力があったのだろう。
心あたりがある。オバマの代理人でもある米国原子力規制委員会(NRC)の委員長、グレゴリー・ヤツコ(Gregory Jaczko)だ。

NCRは選ばれた5人の委員からなる会議体。だが福島原発事故が起こってからは非常事態体制が敷かれ、ヤツコ委員長の独断場である。他の4人は原発推進派のレッテルを張られ、重要会議はNRC本部ではなくホワイトハウスで行なう。早い話がヤツコ委員長が直接オバマ大統領に耳打ちしているわけだ。ブッシュ時代のネオコンのようなものと思えばいい。


▲ グレゴリー・ヤツコNRC委員長

ヤツコ委員長は3月16日に「福島の放射能は異常に高い」と発表し、日本に住む米国人に原発事故現場から80km圏外へ避難指示を出した。諸外国もこれにならい、自国民に米国人の背中を追わせた。福島第一原発から200kmも離れた東京ですら危ないと、無料帰国便まで手配した国もある。日本政府はこのとき「20km圏外への避難」を勧告中であった。つまり諸外国は日本政府を信用せず、国際機関ですらないNRCを信じたということになる。
そんな外国人が東京からも逃げ出すのをみて日本人も慌てた。金持ちは京都や九州へ避難し、いくつかの会社は従業員に出勤を見合わさせた。おかげで通勤電車は空いてよかったが、笑えない冗談である。

NCRはあとになって「2号機で炉心溶解の可能性があったから」と言い訳をしている。安全をとったのだと。たしかにその可能性はあった。もっとひどいことも想定できた。同時に助かる見込みもあった。十分に。

ヤツコ委員長はたいてい「状況は日本政府が発表しているより悪い」と報告する。とはいえ、日本政府が知らない新事実を知っているふうでもない。裏付け資料はどれも日本側が発表したものばかり。違うのは、いくつかの予想シナリオのうち、常に最悪のケースばかりを採用しているということだろう。レベル7まで評価を下げたのも、現状を評価したものではなく「◯◯なるかもしれない」という予想に対してである。そもそも予測で国際評価を決めていいのか?

世界で最も安全な原発を作っていたはずの日本が、世界最悪の事故を起こした。というお題目はさすがにインパクトがある。これが原子力産業に与える影響は尋常ではない。イギリス、ロシア、フランスあたりは「フクシマチェルノブイリの10分の1の放射能しか放出していない」とレベル7への疑いを隠さないが、日本が認めては口を挟めない。「レベル上げは暫定的だ」と言うにとどめている。
だが実態は「80km圏外脱出」で見てきたように、NCRは最悪の状況になることを想定して決める。結構な心がけだが、それにしたってせいぜいレベル6であろう。モノには順序というものがある。5の次は6だ。炉心が溶け始め、死人が出始めたら7を検討すれば良い。おそらくそうはならないだろうが。

それにしても国際政治の世界はフクザツ怪奇だ。
フクシマは中東において戦争に一役買っている。

なぜか?

これ以上原発を増やしにくい世論にすれば、求められるのはやはり石油だからだ。英仏は単独でリビア戦争の支援にと、中東から手を引こうとしている米国をもっと戦争に巻き込もうと必死である。第一次でも、第二次大戦でも同じ光景が見られた。厭戦気分の米国を英仏が誘いこむ図だ。
ヤツコ委員長にそそのかされているとはいえ、もともとオバマはCO2悪玉論者であり「原発推進派」である。それは原発先進国のフランスも同じはずだが、なぜ石油利権にこだわるのか?
ぼくの推察だが、欧米先進国を焦らせているのは中国やロシアなどの新興国からの追い上げである。これまで100年かけて中東、アフリカで築いた既得権がこうした新興国に奪われていくことに我慢がならないのだろう。

また、アラブ諸国の「市民革命」によってイスラム化が進めば、窮地に立たされているのはイスラエル。盟友であり頼みの米国は「だってカネもメリットもないんだもん」と及び腰。米国は国民救済で手一杯である。対日震災支援のトモダチ作戦にしたって、予算は半分以上が日本が出している。米国を動かすのに大義だけではだめなのだ。明確なメリットかデメリットを提示する必要がある。ここに欧州とイスラエルの奇妙な利害の一致がある。
中東の戦場に戻すために、なにか有効なカンフル剤はないものか?と探していたところ、この度の原発事故である。
風評加害者がいるとすれば、これを逃す手はない。

個人的には、原発は他の発電方法に代替すべきだろうと思う。
いつまでも核廃棄物を増やし続け、子孫にその管理を任すわけにはいかないのだ。かといって、放射線の被害妄想的な風評はどうかと思う。以前から書いているように、ヒロシマチェルノブイリも、放射線による人体への被害はたいしたことがない。少量の放射線ホルミシス効果もあってむしろ体に良いこともある。かつての風評ではヒロシマは50年は人が住めないと言われ、チェルノブイリは100万人以上死ぬだろうと言われていた。

蝶は羽ばたき、不安をあおる。
風評はバタフライ効果リビア誤爆の死人を出すかもしれない。

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4 件のコメント

  • デラックスなマツコは好きですが、こんなヤツコはいただけない。

    素人目にもチェルノブイリと同じようには見えないのですが・・・やっぱりレベル7?
    レベル7を背負って再興を果たす逆転劇のシナリオを描ける状況ではないと思うし・・・天災のひとことですませてしまうには酷い程の災禍を利用するなんてことも・・・
    なおきんさんにわかりやすく話して頂いても、「国際政治の世界はフクザツ怪奇」でわかりません。

    モスラですか?火を吹くゴジラも怖いです。

  • そういえば、ウルトラセブンのエネルギーは太陽電池。
    円谷プロダクションが通商産業省・資源エネルギー庁とタイアップして『ウルトラセブン 太陽エネルギー作戦』なんていうのをつくった事がありましたっけ。

  • こんにちは。

    レベル7発表の時、東電役員の焦燥した表情を見ると何が起こったか既に自覚していたようなに感じます。

    大戦後から工作員たちが情報統制のため日本に多様なメディア構成をさせない為に色々とやってたらしいですが、その文化は今も残っていたのでしょうか?

    ある海外メディアでは「状況の収束次第でレベル6に修正の可能性もあり得る。」との記事もあり、その辺は期待したいとこですね。

    しかしモスラがバタフライ効果起こしたらとんでもない竜巻になりますね(笑)

    失礼しました。

  • もぐさん、一番ゲットおめでとさまです!
    あはは、デラックスヤツコはいただけませんね。チェルノブイリ原発の元保有国だったロシア関係筋ですら、あのくらいならまだレベル5のままでもいいくらいだとFinancial Timesでコメントしてましたからね。レベル7へアップした意図を疑ってしまいます。太陽電池といえばウルトラセブン。それからキカイダー01もそうでした。ヒーローもので太陽はよくつかわれてましたね。
    ——————————-
    じさん、発表は東電でしたがいかにも「言わされた」という感じがひしひしと伝わってきました。ただ東電幹部は原子力出身はほとんどいず(GE事件隠蔽のため粛清)、会長以下ほぼど素人です。だからデータは出せてもデータの説明ができないというお粗末な状態に。そんな脇の甘さもつかれたかたちです。モスラの個性は強烈すぎて、ぼくが子供のころ本当に怖かったです。まさか自分がこのイラストを描くことになるとは・・

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    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。