子供時代、もっともしていたいたずらはラクガキである。オカンによれば、家じゅう、ぼくのラクガキだらけだったという。ふすま、たたみ、れいぞう庫・・・。どれほど叱ってもラクガキするので、さんざん手を焼いたそうだ。あげく、オトンなどは「あとで消すか、白く塗ればいい」と、逆にオカンをたしなめたていたそうである。
小学校においてもそうで、気の毒な先生はまず黒板消しでぼくのラクガキを消してから授業を始めねばならなかった。教科書の余白はたいていラクガキで埋められていた。とくに歴史の教科書は、登場人物のほとんどはラクガキによって凌辱され、クラスの友だちに笑われていた。笑われていたのはあるいはぼく自身だったのかもしれないが。
ラクガキはラクガキのままである。
オトンなどは、将来この子は絵を描く仕事について有名になるのでは?と期待したふしもあったようだけど、もちろんそうはならず、自分たちも親バカのひとりと思い知るだけであった。
銀座のどまんなかに「童心に戻れる場所がある」と案内されたのは、建ったばかりの雑居ビルの7Fにある「GINZA RAKUGAKI Cafe & Bar」。文具メーカーのぺんてるが主催・運営している。
ぼくたち3人はBarにしては明るい店内のテーブル席に案内され、飲み物のメニューより先に、まず筆記道具の説明を受ける。壁、床、机、柱・・店内のあらゆる場所にこれらのペンでラクガキしていいという。「いい」と言われるより先に、ペンを持って立ち上がり、さっそくラクガキをはじめたのはもちろんのこと、運ばれたカクテルの氷の色に気分も色めく。
▲さっそく書き始めるなおきん
▲その日はちびきちの誕生日だったので
▲床にも描いたよ さっそくふまれたけどね
メニューもいちいち凝っている。フレンチフライをたのめばパレットふうにあしらわれ、ラクガキだらけのテーブルにのった。「このブルーは何ですか?」と店の人に訊けば「ブルーキュラソーです」という答え。色を揃えるにはポテトにブルーキュラソーもアリなのだ。
▲ほかのソースはだいたい想像がつくけどブルーだけは・・
カクテルをたのめば、チカチカと色の変わるグラスに注がれて登場。このBarは仕事の話をしたり、女の子を口説いたりするに向かない。ひたすらペンを取り、色めき高揚しながら思い思いにラクガキに興じるのだ。酔えばますますペンも滑らかである。
▲色の変わる光るカクテル
▲カウンターにはラクガキが照射されたり
「ああ、こういうのがしたかった」
と何十年も昔に抑えこんでいた童心が、むくむくと起き上がってくるのであった。そんなラクガキで壁も柱も床もテーブルもメニューたてに至るまで、びっしりとラクガキでうめつくされていた。
▲けっこうりっぱな柱だけどラクガキだらけ
▲童心にもどれました
なんだみんなラクガキしたかったんじゃないか
期間限定のようなので「行ってみたい!」と思われたかた、お早めに。
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