寝ている人はすごい。
そして意外な動きをする。
思えば海外で他人の寝姿を見るとしたら路上のホームレスくらいしかない。ここ日本ではいたるところで見られる。電車、ベンチ、セミナー会場・・・ まだある、国会。
わが子の寝顔は可愛いものだが、他人は違う。
だが子煩悩になる必要がないぶん、冷静に観察できる。
誰もが経験する電車の居眠り。
心地よい揺れと規則正しい騒音。
あれだけ知らない人に囲まれながら目が閉じれるのだから、やっぱり日本は平和なのだろう。荷物は網棚に置いたままという人もいる。スカートの間からパンツをのぞかせ、眠る女性もいる。ありがたいが、目の保養にならないことも多い。
互いの肩に頭を載せて眠るのは恋人たちだけではない。
酔ったサラリーマンも、子育てに疲れた主婦もいる。
人の頭は意外に重い。意識が無くなれば首は支えられない。
右に傾けば肘で押し戻され、左に傾けば避けたついでに舌打ちされる。前に倒れてよだれをこぼし、後ろに倒れて後頭部を車窓に打つ。右、左、前、後ろ、面白いように上半身がぐるぐる回る。それでも寝ているOLさん。すごい。しばし見とれる。
長い髪が連獅子のように舞う。
左に座っている若い男が迷惑そうに舌打ちする。
草食男子め!そう思った瞬間、そいつが席を立った。
次の駅で降りるらしい。
目の前の席が空いても座らないぼくだが、OLさんのために着席。
ぼくの肩なら遠慮はいらない。いくらでも使うといい
そのつもりだった。
彼女の上半身は例によってぐるぐる回っている。
連獅子の髪がぴしゃぴしゃ顔に当たる。意外と痛い。
ゴッという、窓に後頭部をぶつける音。反射的に頭は前へ。
顔を上げると、口の端に糸をひくヨダレが光る。
寝ながらにして派手な動きにヨダレ顔。
きっと親にも見せたことのない姿に違いない。
他の乗客もチラチラ見ている。かなり見られている。
OLさんに声をかけ、起こしてあげるべきだろうか。
だがどうやって!?
すいません、連獅子になってますよ、か
お客さん、着きましたよ、か
肩、よかったらつかってください、か
朝だよ、ベイビー か
勇気の使い方に迷っていると、
「お腹に赤ちゃんがいます」のキーホルダーが眼前に。
いつの間にか、妊婦さんが前に立っていた。
反射的に腰をあげるぼく。
だが、そこに座ってきたのはサラリーマン男。
オマエが座っちゃうのかよ!
と思ったのは寝ているOLさんだったかもしれない。
そのサラリーマン、
さっそく、ぴしっと連獅子攻撃されていた。
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