コンプレックス商売

実家ではネットが使えない。

オトンのパソコンはあるが、フォトショップ専用機。
インターネット無しのPCなどイマドキめずらしい。

数年前、ネットが使えないのは不便でしかなかった。
いまネットが使えないのは、自由でいられるということだ。
iPhoneもオフにして、久しぶりの昭和を楽しむことにした。

実家では一日中テレビがついていた。
見る人がいなくてもついている。
こっそり消すが、いつのまにかついている。
オカンの家でも同じ。テレビは常にオンである。

番組には興味はないが、CMをみればいろいろわかる。
健康食品やダイエット、発毛剤のCMがやたらと目立つ。
とくに昼間の番組はすさまじい。TVショップだらけだ。

「健康食品ばっかりじゃん!」

ぼくがそういうと、オカンはそうかしらね?と意外そう。
麻痺しているのだ。知らず買わされていることも。
家ではそんなサプリやらドリンクがうじゃうじゃ出てきた。

健康食品、あるいはクスリのようなもの。
これら番組スポンサーがターゲットにしているのは
「ハゲ」「デブ」「ブス」「シニア」である。
言い方があんまりな感じだが、たいていどれかにあてはまる。

モノが売れないと言われる。
無理もない。日本人はもう十分豊かになった。
モノがたくさんあることが豊かであると言われなくなった。

人間には胃はひとつしかないし、手足は二本ずつしかない。
1日10回ご飯を食べれないし、同時に2台の車を運転できない。
物質的ニーズは、満たされればもう伸びシロがないのだ。

だが心はちがう。
心を満たしたいという欲望は、掘ればいくらでもでてくる。
典型的なのが劣等感、いわゆるコンプレックスだ。

出来ない理由を、ひとはときどきコンプレックスのせいにする。
これは悲しい人間の性でもある。
だがこれを逆手に取ればビジネスになる。不況にも強い。

ダイエットやイケメン、アンチ・エイジングが儲かるのは
コンプレックスを克服したいという欲望が源泉であるからだ。
ひとはだれしも、若く健康で美しくありたい。
売り手はこれを換金化させればいいことだ。

それにしても、とぼくは思う。
テレビCMは常軌を逸してないだろうか。

テレビCMのスポンサー料はべらぼうに高い。

十数秒の放送で、あっという間に数千万円、数億円もする。
広告が払えるスポンサーは、それ以上に儲かってないとダメだ。
価格に占める広告費の割合が大きいほど、その商品は後ろめたい。
自然なニーズだけでは、十分でないことを知っているからだ。

ニーズがないなら、無理やり作れ。
コンプレックス商売はここからスタートする。

「あなた、それじゃモテませんよ」といい
「人生をエンジョイできませんよ」とたしなめる。

人を不安にさせること。
これがコンプレックスCMの役割だ。

不安はストレスを生むし、
ストレスから逃れたがるのは人間の本性でもある。
本性を前にひとは冷静な損得勘定を失う。
売る側からすれば、金払いの良い客は都合いい。

やり方がそっくりなものがある。

マスコミなどのメディア。それから宗教だ。

テレビや新聞が不安をあおる記事や番組ばかりになるのは
そのほうが儲かるからだ。CMと相性がいいのもうなずける。
宗教の勧誘もまず人を不安がらせておこなわれる。
あなたの不幸には理由があります、とやる。

外からみると日本ほどいい国はない。

日本人ほど清潔で健康的に暮らせる国民はめずらしい。
だのに中で暮らしてみると、ひどく不安になる。
なぜだろう?と思っていたが、正体はこれであった。

テレビばかり見ているとバカになる、といったのはオカンだ。
だのにいまじゃオカンがテレビばかり見てバカになっている。

よけいな健康食品を買い、体に良いからとぼくに持たそうとする。
オカンの親心はいくつになってもありがたいが、
年金生活者にこんなモノ買わすんじゃない、とも思う。

オトンはオカンとちがって、テレビを見ない。
新聞は「共同通信の洗脳記事ばかりだから」と適当に読む。
カメラとフォトショップとラジコンと清掃ボランティアに夢中で
TVは見た瞬間、魔法でもかけられたかのように居眠りを始める。
インターネットも本能的に避け、情報はもっぱら書籍と人間。

男は顔じゃないとハゲさらし、
きょうも元気にヌード撮影会に出かけていく。

間違いなくぼくはオトンの子だなあと思う。
ぼくもヌードは大好きだから。

5 件のコメント

  • コメントを久しぶりに書きます!私の父は叔父の影響で昔からカメラ好きでした。写真を撮るのが好きなのかカメラを買うのが好きなのかはわかりませんが、私は子どもの頃からいつも父のカメラを使わせてもらえるのでカメラを自分で買ったことがありません。(現在のカメラは父からプレゼントされました。)ところでそんな父ですが、ヌード撮影会は一度も行ったこと無いですねえ。昔はこれでもかーってほど花の写真を撮っていたと思います。テレビCMの話しですが私は日本のテレビを録画した物を見てます。だから録画してもらうタイプに寄ってみるCMも偏ってるんだと思っていましたが、全体的にこんななのかあ〜と今わかりました。物質的に満たされている人間達からお金を搾り取るとしたら、コンプレックスを作れば良いんですね。納得です。だからダイエットとか髪の毛が奇麗になるシャンプーとかばっかり宣伝してるんだ。後は臭い部屋や臭い洗濯物の匂い消しが大事ですね。おまえらくせーんだよ!って感じです。私と息子はそんな宣伝に突っ込みを入れてばかりで購買意欲はかき立てられませんが、世の皆さんが余り宣伝に惑わされないことを祈ってます。

  • 今日の記事には本当に納得してしまいました。

    私も昔、久々に関空に降り立つ度に、この国の清潔さと整然とした空気にクラっとする程でしたが、暫く暮らしていると窮屈で何か居心地が悪い気がしたものです。

    私は健康食品とは無縁の生活ですが、連れあいは激しいサプリメント依存症、育毛剤も必需品で家計を圧迫しています(笑)以前はよく議論になったものですが、今ではこれは宗教みたいなものだから仕方ないと見守っております。

    ま、皮肉にも、蓄えて守りの堅いシニア世代からお金を吐き出させる笑えない商売ですねぇ。

  • コンプレックスに期待を加えて焦りをまぶせば…お金に羽が生えてしまう気がします。

    そんな事とは無縁なご様子のお父様から、老後の力強い指針を頂いた気もしてます。

  • ぷうさん、一番ゲット、おめでとさまです!
    ちょっとおひさしぶりでしたね。おげんきでしたか?「人とコンプレックス」この関係は決して悪いもんじゃありません。人は向上心があるからコンプレックスが生まれるわけですから。ただ、ないニーズを作ることを目的に「コンプレックスを生ませ」たことが結果的に不安を醸成させてもいます。かつてのアデランスやいまのリーブ21のようなハゲ産業はその典型。悪魔のフロー図を今一度確認しておきたいと思いました。
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    エイシアさん、
    日本に限らず、一定の情報と経済基盤を持つ国はどこもこの「コンプレックスビジネス」に翻弄されています。人は情報によって自立し、同時に情報によって依存させられるのでしょう。こんなときだからこそ、リテラシーを、自分のフィルターをしっかりと持ちたいですね。
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    こいもさん、
    実を言うと、オトンもかつてはヅラをつけていたんです。本人も言っていますが、「自己嫌悪が自意識を超えていた」時期は頼るものは道具しかなかったと。いろんな宗教にも声をかけられたりもしたそうです。オトンにとってテレビとネットと宗教ギライはけっして「食わず嫌い」ではなさそう。ぼくはネットは嫌いではないですが、ときどき距離を置きたいもののひとつです。
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    はてなさん、
    すみません。今回もシリアスなまま終わらず、最後はおちゃらけてしまいました。でもあながち冗談でもないところが困ったところですが。ヌードはいいですね。

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    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。