それぞれのやり方で、それぞれの世界を作る。
旅においても同様で、そこに暮らす人々がおくる日常を異邦人として漂うのが、ぼくの好む旅のスタイルである。非日常ゆえに、際立つ日常。そいういうのがマゾ的に好きなのだ。いくつもの常識が裏切られ、多様性に収斂されていく。だから個人的には、遺跡巡りや外国人向けリゾート地にあまり縁がない。自らそこへ向かわない。
こうした場所に行くならツアーを使う。このときばかりは観光客になりきるのだ。頭を空にし、手足を放り投げてガイドに従う。このたびのエジプトの旅は、まさにこれだった。カイロ、ギザ、ルクソール、アスワン、アブジンベル、ハルカタ・・さながら ベルトコンベアに乗ったような気分になる。オートメーションシステム。それがぼくにとって、ひどく新鮮だった。
エジプトを観光で訪れる人は十中八九、ピラミッドを見る。「むかしからピラミッドがどうも苦手で・・」などいう人は、まずエジプトなんか来ない。おおかたの訪問者は、現代エジプト人より、古代エジプト人にリスペクトをもつ。エジプト人自体、現代よりも過去のエジプトを誇っているようにもみえる。古代エジプト文明が世界に誇るのは古さだけではない、全31王朝で3000年も続いたことである。もちろん世界一の長さだ。ちなみに次が日本の天皇家、今年で2677年である。
もうこれ以上、訪れる先々で「ニー・ハオ!」と声をかけられたくない。と思い始めたら、そろそろ帰り支度をするころだ。五千年前に生きた人々が織りなすエジプト文明に対し、現代エジプト人のなんと怠惰なことか。僭越ながらそう思わずにいられない。百年後、日本のGDPはエジプト並みになると経済誌で読んだ。ほんとうだろうか? ぼくならもっと上手に外国人にお土産を売ってみせる自信がある。
いっぽうで、カイロにある考古学博物館を見学しながら、あの時代にこんなにも技術や高い文化があったなんて、宇宙人がいたら自慢してやりたいと思う。バスで移動しながら次々に目の前に現れる遺跡群にも、そうひとりごちる。五千年前、エジプトにも日本にも、あるいはニューギニアにも人々は暮らしていた。違いは遺産だ。建造物と書物。どちらも技術や文化の継承に必要なものである。継承にはメンテナンスとアップグレード、それから正当性が必要不可欠である。古代ジプトにはそれがあり、中国にはそれがなかった。中国の易姓革命は、皇帝ごとに歴史の断絶を作ってしまった。残念である。いや、日本人にとっては幸運であった。でなければ中国の一部領土にされかねない。
さてエジプトである。
若い男たちは、スリムな体躯とスッキリ小顔のイケメン揃いである。おじさんになると一転、太ってしまうようだけど、これはなにもエジプト人に限ったことではない。だが、若い男たちがイケメンだけになんだかちょっともったいない気がする。
また、イスラム教の国なので女性の半数は顔を隠す。残り半分の女性を見る限り、やはり顔立ちは悪くない。イケメン・イケ子である。それにびっくりするほど気持ちがやさしい。あくまでも接触したエジプト人に限るけれど。だいたいにおいて、人を騙すことに長けていない気がする。
エジプトの治安は?
治安はどうか? と友人たちは心配してくれた。これについては、どの国にもいえるけど「日本ほどじゃないけど安全です」というしかない。ただし国全体が貧しく、富めるものは貧しいものに施しを与えるというイスラムの戒律どおり、観光客からバクシーシ(チップのこと)を得るのが当たり前という風習がある。テロへの警戒がそれなりに強く、要所要所に自動小銃や軽機関銃を持つ兵士や装甲車、詰所などがみられた。旅行中、撃ち合いをしているところを見ることはなかった。また、こうした兵士を写真に撮ることはタブーである。たとえバスの中からの撮影でも見つかれば引きずり降ろされ、目の前でデータを消される。虫の居所が悪ければ、どこかへひっぱられる。罰金もある。空港の荷物検査は厳重を極める。移動するときは、余裕を持って空港へ到着すべきだろう。
エジプト料理はヘルシー?
なにしろ日本人にとって和食は世界一である。それよりは劣るとはいえ、グリルした肉などはそこそこ美味い。ザクロやマンゴーなどの果物も甘みたっぷりである。それから野菜が美味い。キュウリやトマト、いんげんやパプリカなど馴染みの野菜は瑞々しく新鮮で臭みなく、日本のより美味しく感じた。そうでもないのがコメや穀物、炭水化物類。素材はともかく調理の仕方もあって、美味しく感じない。米の品種は日本と同じジャポニカ米が8割を占める。惜しいなあ、という気がする。パスタなどは一流ホテルのレストランですら不味い。魚料理もあまり美味しいとは思わなかった。もちろん個人差によるものなのだろう。そのような理由からエジプトにいる間、ぼくは野菜と果物でお腹を満たした。帰国してみると、体脂肪率が2%も減っていた。という意味でエジプト食はヘルシーである。まちがっているかもしれないが。
エジプトの物価が安いか?
日本の2〜3割程度と、おどろくほど物価は安い。だがエジプト人の平均年収は約94万円。庶民においては物価はちっとも安くない。地元の食堂で食べれば1食150〜200円、ビール140円。外国人向け高級レストランだとこれが5〜10倍になる。家賃は家族4人が住める程度で2万円ほど。博物館の入場料は外国人でおよそ400〜500円と高めに設定され、エジプト人価格はその数分の一である。高級ホテルと外国人向けレストラン、遺跡巡りなどすれば1日2万円程度は覚悟をし、個人で安宿を取り、ローカルと変わらない食堂や移動手段で済ませるなら1,000円で足りる。アラビア語の読み会話は必然であるが。
エジプト観光の再開
ピーク時に対し、日本からの観光客は9割も減ったエジプト。20年前ルクソールで起こったイスラム集団による観光客を狙ったテロ事件は、今なお生々しい。神殿への階段は血に染まり、日本人観光客の中には内臓が引きずり出された犠牲者もいる。犯人からのメッセージが腹に詰められていた。最近では2016年12月、カイロにあるキリスト教教会での爆破テロ。74人もの死傷者が出た。ピラミッドのあるギザでも警官6人が殺傷された。現在も検問がうやうやしいのはそのためでもある。
じゃあ、エジプトは危険か?と言われれば、いまは(2017年3月時点)そうではない。都市も郊外も観光地も実に平穏である。ヨーロッパ諸国並みである。カイロのツアーには念のため警察官が同行したが、かといって危険を感じたことは少しもなかった。著名な場所には観光客でそれなりに賑わい、とくに中国人やロシア人、ドイツ人観光客が目立っていた。日本からのチャーター便もあるようで、アブジンベルのホテル内レストランでは客のほぼ全員が日本人という場面にも出くわした。外務省の「海外安全ホームページ」でも、カイロやルクソールなどは最も安全なレベル1にまで回復している。治安の理由からエジプト旅行をあきらめていた人は、再度検討していいと思う。
いっぽうで、
これは何もエジプトに限ったことではないけれど、このたびアルカイーダが開発したパソコンのバッテリー内に隠せる高性能爆薬が気になる。米国や英国が、パソコンなどの電子機器を機内持ち込みにするのを禁止したのは、このためである。もしどこかの航空機で爆破事故が起きれば、今後予防としてパソコンなどの大型電子機器は機内どころか預け荷物でも禁止されるだろうし、やがてはスマホを含む全ての電子機器が持ち込めなくなるかもしれない。スマホやデジカメ、パソコンを旅や出張に持っていけないとなればずいぶん不便だし、味気なくなるだろう。となれば、商魂たくましく、到着空港ではパソコンやスマホのレンタル店が次々と開業するかもしれない。
もっとも、電子機器に頼らない旅も味わい深そうである。
さあ、エジプトへ行こう!
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