学生時代にとった資格に、英文タイプライター検定資格というのがある。当時はパソコンどころかワープロすらもなかった時代。だのに安アパートにはピカピカのイタリア・オリベッティ製の英文タイプライターが居座り、毎晩のように打刻音がぱちぱちと近所を迷惑がらせていた。もちろん今はそんな資格者など要らないし、検定そのものがなくなった。
タイプライター技能はそのままパソコンへ継承
パソコンの時代になってからも、だがその技能は有効で、おかげで誰よりも素速く、正確にキーを打つことができた。打ち込みの速度が尋常じゃないので、周りのドイツ人もびっくりしていた。これは数少ない自慢のひとつである。いや、ひとつであった・・・
過去形なのは、その技能はやがて失われることになったからである。ある事故から頚椎を痛め、その影響で手首に障害が残った。以来、マウスクリックやキー入力をするたびに激痛が走るようになり、ダブルクリックはほぼできなくなった。さらに悪化してからは指に震えがあり、キーボード入力にも支障が出るようになったのだ。かつてのスピードは見る影もなく、誤入力も増えていった。
クリックで激痛、キー入力も困難に
手や手首に負担のかからない人間工学に対応したといわれるキーボードはひと通り試したし、トラックボールなどさまざまな種類のマウスも試した。そしてようやく10年以上まえ、ワコムのペンタブレットに行き着いた。これならペン先をノックすればマウスクリックできる。指の負担は格段に減った。だがせっかくのペンタブレット。欲が出て、付属のソフトで絵を描いてみた。慣れると面白いように描ける。こうしたことをきっかけにパソコンでイラストを描くようになり、イラストブログ「イラ写」が誕生した。怪我の功名といえなくもない。
それでもキーボードによる入力はその後も苦労をした。痛みをかばうため肩こりもひどい。パソコンなんて捨ててしまいたくなるほどである。iPhoneのフリック入力のほうが、遅いがまだましである。iOSのバージョンが上がり、Siriが搭載されるとその音声認識が使えることに気がついた。文章入力もこれでできるかもしれない・・光明が差し込んだ。
ほんの数年前までは音声認識の精度はまともではなく、とても使用に耐えられるものではなかった。それがここ1〜2年、一気に精度が上がった。クラウドによる学習能力の高まりや、内蔵マイクの精度も大いに寄与したのだろう。漢字変換の正確性はキー入力を超えたんじゃないかと思うほどだ。あとは記号類の入力と、個別の学習能力が備わればいうことなしである。
ついに音声入力がキー入力を超えた
先日、中国の百度(バイドゥ)がスタンフォード大学とワシントン大学都の共同である実験結果が発表された。人間が読み上げる短い文章を32人の被験者とプログラムが同時に入力を開始し、そのスピードと正確性を競うというものである。
はたして結果はプログラムの圧勝。
入力スピードで人間の3倍もあり、ミスタイプが英文では2割、中国文で6割以上も少なかった。スピードだけでなく、ついに正確性においても人間を上回る結果に、実験者たちも驚いたそうである。日本語はどちらかといえば中国語に近いから、英文より中国分の実験結果に近いんじゃないかと思う。
音声認識の次はなにが来る?
一度はあきらめそうになったパソコン操作であるけれど、タブレットと音声入力技術向上のおかげで、延命することができそうである。このまま進化を続ければ、デバイスへの入力は音声すら必要なくなるかもしれない。人前で音声入力はさすがに勇気がいるが、無音で、例えば骨伝導のような方法で入力できるようになるかもしれない。それどころか、言葉を思い浮かべるだけで入力されるようになるかもしれない。
もちろん、それは困る。
思っただけで、勝手に入力されてしまっては人間関係においても、何かと不都合がでてきそうである。ちょっとここでは書けないようなことを思うことだってありそうである。
いずれにしても「まだキーボードとか使ってんの!?」とかいう時代は、もうすぐそこまできているのかもしれない。なかなか楽しみだが、いまから人間関係がちょっと心配である。
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