良いことも悪いことも、人からされたことは覚えているもの。見かけによらず人はナイーブで、とくに他人からひどいことを言われれば、傷つくことだってあるからだ。
たとえばここにA子さんがいる。
勤務中、同僚B子さんから暴言を吐かれた(同僚B子さんは注意したつもり)とする。この時点でA子さんの受けたダメージは1回。これを「ダメージ1」とする。
次に勤務を終え、帰宅時の電車でB子さんの暴言を思い出してしまった。このとき、受けたショックや怒り、悔しさも一緒に思い出し、頭のなかで再現してしまう。これで「ダメージ2」。
そして就寝時、ベッドの中でまたB子さんの暴言を思い出す。このとき電車の中で思い出していたときに涙が出そうになり、周囲の乗客から不審な目をされたことまで思い出してしまった。これで「ダメージ3」。
以後、A子さんは事あるごとにB子さんの暴言を思い出しては、次々とダメージを受けてしまう。これほどまで心を傷つけられ、なんて自分は不幸なんだ。なんてB子はひどいやつなんだと。やがてB子さんの姿を見ては思い出し、声が聞こえるだけで腹が立ち、いきおいB子さんと親しいC子さんまで憎くなってくる。これ以上傷つきたくないと、ふたりから避けるようになる。避けるたびに暴言を頭に浮かべ、4回、5回、6回とダメージは増すばかり。被害者はこっちなのに!と。
B子さんは自分の言ったことなどもう忘れている。
自分のやったことなど一顧だにしないようすだ。A子さんは思う。自分はこんなに傷つけられて、どうしてこちらから避ける必要なんてあるのか。あの薄情で、心の汚れたB子やCこの方が悪いのに。もはや同僚というより、人間としても認めない。どうしてこの会社はあの人たちを辞めさせないのか? ということは会社も同罪だ。なんてひどい会社なんだ・・!見て見ぬふりをしている上司もひどい、同罪ではないか!
A子さんの怒りと悲しみは増幅され、その間にもダメージは7回、8回、9回と増えていく。自分ばかり傷つくなんて我慢ならない。こうなったら報復だわ。どれだけ自分が大きな被害を受けたか思い知らせてやる・・・
その原因は「同僚の暴言」だろうか?
それもあるかもしれない。だがそれはただのきっかけで、客観的に見て妥当性はない。原因はA子さんの中で「事実」に「回想」が掛け算で増幅され、ダメージが大きくなったことにある。増幅された被害者意識はますます暴走し、モンスターへと成長させる。こうなるとA子さんをむしろ周囲は恐ろしがるようになるだろう。
被害者だと思っていたら加害者になっていた。
ということは、意外とある。
記憶はこのようにダメージを増幅させる。
回想しそうになったとき、事実(暴言)とは切り離し、さっさと忘れてしまうことだ。B子さんとは、翌朝にっこり笑顔で挨拶すること。もしB子さんに引け目があれば、好意の返報性もある。なくてもかまわない。だまされたつもりでやってみれば、わだかまりも消える。
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