もし私が若い日本人で、英語が話せたら、私は日本を出ていくだろう
リー・クアンユー One man’s view of the world より
「20~21世紀のアジアの伝説的な偉人の一人」といわれるシンガポール建国の父、リー・クアンユー氏が著書で、日本の未来について語った言葉である。
大きなお世話だ!と思ったあなたは気骨がある。だいいち、出ていく人はいわれなくたって出ていく。二十歳のときのぼくのように。だが、リー氏が警告するのは、財政や経済上だけの問題ではない。ましてや「日本で周りと同じように生きることにうんざりしたから」という、ぼくが感じた理由でもない。氏はもっぱら「安全保障上の問題」で、日本を出ていくだろう、といっているのだ。つまり身を守るために。
これは警鐘である。
台頭する周辺国の軍事プレゼンスと無関心
中国や北朝鮮の軍事的プレゼンスは、思いのほか大きい。
とくに中国は近年、はっきり軍事的に日本を抑えこもうとしている。頼みのアメリカは他国への介入を避け、世界の警察を降りたがっている。あとは自分たちで守れと。そのことを知ってか知らずか、「安全保障の話」になるととたんに忌避してしまう日本の世論。「日本を戦争ができる国にしてはならない」などという。世論を形成しているのはマスコミ。他国に攻撃されたら無抵抗でいいじゃないかとすら言い出す。本気だろうか? 殴っても殴り返されないと相手に悟られれば「じゃあ殴らないでおくね」とはならない。むしろ、好きなときに好きなように殴れる、と思うだけだ。戦争は、攻撃してくる相手にそう思わせることで始まる。「改憲したらアベが戦争を起こす」などというのんき者は、もう少し歴史を勉強した方がいい。歴史以前の問題だが。
リー氏が警告するのは、これからじわじわと弱くなる日本が背景にある。予想では2040年までに、全国の地方自治体の半分が消滅するといわれる。主に人口が減り、とくに生産人口が減ることが原因だ。今の地方は少し未来の東京で、そのとき地方は前人未到の高齢者街である。ぼくは広島出身であり、しかも四国や東海、関東甲信越にアパートを所有しているから、地方都市で今なにが起こっているかに対しひどく敏感である。調査もするし、アパート経営するために試算もする。そこからみえるのは、驚くほど衰退していく日本の姿である。
社会保障費に目を向ければ、その破壊力に思わず声が出る。2015年度で119兆円もあり、10年後には146兆円と、26兆円も増える。社会保障費は、うち年金が半分、残りを医療費と介護費が占める。大半が高齢者の数に比例して増える費用である。誰かがその負担をしなくちゃならない。
誰が負担するのか?もちろん政府なんかじゃない。ぼくたち納税者である。じゃあ納税者数は増えているのかといわれれば、これが減っている。収入頭数が減り、支払い頭数が増える。年々、この差が開いていく。これがいまの日本である。今後は折りにふれ納税する機会が増えるし、納税額が上がりつづける。さらに日本は重課税国家になる。若い人でなくても逃げ出したくなるではないか。
安全保障を無視した2016年都知事選
防人となる若い人は減るいっぽうである。こんな情勢にあっても防衛費は5兆円。社会保障費に比べれば、たったこれっぽっち?という気がしないでもない。中国の国防費は毎年毎年ふた桁%増し、微増の日本との差は開く一方である。殴っても殴り返されない上に、さらに彼我の軍事パワー比は開くいっぽうである。「戦争反対」を叫ぶならSEALDs、場所は国会前でなく、中国大使館前がふさわしい。
地方自治体が消滅するということは、そこを守っていた警察署も消防署もなくなるということだ。検挙率は減り、犯罪率は上がるだろう。となりの都市の警察がカバーするんだろうか? するに違いない。 だがしだいに力は弱くなる。一人の警官がパトロールする範囲は広く、どうしても手薄になるからだ。軍事も警察も消防も、そのように連鎖的に薄く弱くなっていく。
先日の参院選の結果を経て「日本は改憲出来る国になった」と、ことさら危機感を煽る報道が見られるようになった。だが危機感は必要ない。改憲内容についてやっと発議が行え、民主主義らしくなったというだけのことである。それをいうなら、都知事選候補の元ジャーナリストT氏なんて危機そのものである。まるで内側から鍵を外すような「外国人参政権」をひっさげているし、健康リスクも抱え込む。あまりにも数字に弱いし、話しているそばから単語を忘れていくさまを会見でさらしてしまった。都政なんて考えたこともなく、公約なんて誰かが用意してくれるものだと思っている。こんな人を立ててきた団体はそんなにしてまで東京を、ひいては日本を弱くしたいのだろうかと疑いたくなる。
弱者ほど政治に関心を持つ
若くて英語ができたら日本を出ていくだろう
という言葉が与えるショックが収まらない。むしろその逆であることが望ましい。出ていくのは若くない方の日本人で、優秀な若い人は国内に留まり、どんどんイノベーションを起こして欲しい。そんな若い人が残りたいと思うような日本でいることが大事である。にしては政治家はあまりにも高齢者の票を気にしすぎた。様々な制度が有利なのは若い人でなく、高齢者ばかりではないか。
- 日本に食わせてもらおうと思っている老人
- 日本を食ってやろうと思っている諸外国
参政権は18歳まで若くするだけでなく、年齢の上限も定めるべきじゃないだろうか。既に心ある高齢者は自立しようと懸命な努力をされ、実践している。健康意識を高く持ち、いつまでも生産者であろうとする。ぼくがサラリーマンを辞め独立したのは、その下支えができればと思うからである。社会保障に負担をかけまいと自立した高齢者の割合が増えることが、明るい日本の未来に欠かせない。
政府には、攻めれば容易に生命や資産を明け渡すだろうと相手に思われないよう、引き続き安全保障を充実させて欲しい。例えば自衛隊の行動規範をポジティブリストからネガティブリストに転換させて欲しい。「なにをしていいか」ではなく「なにをしてはいけないか」へと。それだけで対応能力が上がる。予算をかけずともパフォーマンスが上がる。国防は民間企業ではできないのだから、手を抜かないで欲しい。
もし私が若く、日本語をしゃべれるなら、私は日本へ行くだろう
リー・クアンユーの言葉を反転させてみた。
いまも日本にあこがれる外国人は多い。
だがいつまでもいると思ったら大間違いである。
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