いつかはキューバへ!
そう思いながら、なかなか行けずにいたキューバ。
まるで1960年代の風景が奇跡のように残る世界遺産、ハバナの街。世界で唯一、社会主義革命が成功したといわれるキューバであるが、こんなにも変化が激しい世界にあって、変わらずにいられたのはどうしてか? キューバ人のプライドや意識の高さもあるかもしれない。だが何よりも1961年以来、アメリカと国交断絶していたという政治的理由にあることにまちがいない。
そのアメリカと2016年12月、国交が正常化した。
さっそく直行便が再開され、民間レベルの通信が回復されたという。ひとことでいえば、ヒト、モノ、情報の交流が始まり、堰を切ったように拡大するだろうということだ。ベルリン崩壊後の東欧やソ連崩壊後のロシア、天安門事件以後の中国のように、遅れた新興国としてキューバは発展していく可能性が出てきた。良いか悪いかは別として。
そのことで奇跡のように時が止まったままの景観が変わるのは明らかである。世界の他の都市のように、ハバナもカリブに浮いたごくふつうの都市になるのかもしれない。1989年以前のベルリンが、ワルシャワが、モスクワが北京からかつての面影が消えてしまったように、ハバナもまた同じ運命になる・・・
ぼくはたまらずメキシコ経由ハバナ行きのチケットを取り、キューバ領事部へツーリストカードの申請をした。おそらく10年後、あのころの、変わる前のキューバを見ておいてよかったと確信できるから。
1.キューバへの行き方
- 観光の場合、ビザが必要である。ただパスポートにキューバのビザがあることを良しとしない国があることへの配慮から、ツーリストカードという別紙で用意される。本人がキューバ大使館領事部に申請にいけば2100円で済み、郵送の場合は3500円にハネ上がる。まして旅行代理店経由だと1万円くらいとられる。
- 医療費がタダというのにつけこんで、治療目当てに入国されないよう「海外旅行保険」が必須になる。もしくはクレジットカードの付保証明で代用できる。とあったが、入国時に提示を求められることはなかった。おそらく事情が変わったのだろうか。
- 出国時に出国税25ドル払わされるとも聞いていたが、これの請求もなかった。このあたりはいろいろ流動的のようだ。
- 空港からハバナ市内まではタクシーを利用した。25CUC。もっとふっかけられるし、安く抑えられる。何事も交渉次第である。面倒ならそれだけ高くなる。
2.キューバの食事
- もともとグルメじゃない上に、あまり食事にお金をかけないぼくの情報はあまり参考にならないのであしからず。その上で、美味しかったのはロブスター。しかも安く、付け合わせ込みでCASAで1000円、地方のレストランで500円であった。
- 付け合せのライスも豆もサラダも味に好みが合わない。ほとんどが有機野菜だそうだ。
- わりと高級店でスパゲティを注文してみたが、生涯忘れられないほどの不味さだった。
- 生ジュースは旨い。名物はマンゴーかパイナップル。これとモヒートがあればキューバで暮らしていけると思う。
3.キューバの宿
- 外国人用ホテルは設備のわりにびっくりするほど高い。これは社会主義国経済の伝統である。ふつうは2〜3万円、日本のビジネスホテルレベルですら1万円以上する。
- いやなら民宿(カーサ・パルティクラル)に泊まる手がある。一泊2〜5千円程度。というか民宿がおすすめだ。オーナーは世話人を雇い、ベッドメイクや食事を泊まり客に提供している。キューバ人の普通の家にホームステイする感覚が楽しめる。会話はスペイン語になるが、それもまた味わいのひとつだ。天井が5mくらいあってびっくりする。ベッドは柔らかめ。シャワーはお湯が出ないこともあるが、なにしろ暑い国なのでそれほど苦ではない。好みの分かれるところではあるが。
- CASA パルティクラル予約サイトは各種あるが、ぼくはAirbnbで手配した。
4.キューバのインターネット
- 世界でもっともキューバらしく、かつ不便なのがインターネットへの接続。ネットのない暮らしを満喫したいのなら迷わずキューバだ。事情が許さないのなら、もれなくETECSA(キューバの携帯電話会社)のWiFiインターネットサービスのプリペイドカードを購入することになる。他に手段はない。
- プリペイドカードはエビスポ通りの支店でも買えるし、大きなホテルでも買える(やや高くなる)。相場は30分2CUC、1時間4CUC。1時間400円は高い。
- ホテルのラウンジで高い飲み物代を払うのがいやなら、Wifi電波の届く道端か公園のベンチで接続するしかない。日向を避け、木陰ベンチの取り合いが、まるで花見シーズンの場所どりを思わせ、楽しい。そこまでして繋ぎたいのか、と冷めることうけ合いである。
- 通信速度は思いのほか悪くないが、接続の度に長いIDやパスワードを入力しなくちゃならない。IDは保存はできない。しかも同時アクセス数が限られているのだろう。大勢アクセスが集中すれば弾かれる。20分たってまだつながらない、ということもある。いい思い出になる。ネットゲームに興じる気も起こらず、健康にもいい。
5.キューバの治安
- 治安は悪くない。 それでもスリや強盗に遭うこともある。相当運が悪かった場合だが。警察官も街でよくみかける。パトロール中、時おり街の人達とハイタッチしていたりする。経験上、警官と住民が親しい街は悪くない。飲み屋で財布をなくしたことに焦ったが、宿に置き忘れただけだった。
- 「施しを」と手をつきだす老人や子ども、シガーの売人などの売り込みにはちょっと辟易させられるが、そのぶん街に広告がほとんどない。形を変えたプロモーションと思えば、なんでもないのだ。
- そんなキューバも今後外資が注入され、経済発展していけば、まちがいなく他の都市同様に犯罪も増えるにちがいない。やがて「あのころは良かった」と回想するだろう今の治安の良さをエンジョイしておきたい。
6.キューバの交通
- バスは「よくこんな年代モノが!」と思わせるロングノーズ型である。中国からの中古バスもよく走っている。乗る機会はなかったが見る機会ならいくらでもあった。トラックの荷台に立ったままの人たちが乗降する姿も見たが、あれもバスなのだろうか?
- タクシーは自動車と自転車に分けられる。自動車のほうは年代物のビンテージアメリカ車もみられるが、70年代ソ連製のラーダも現役だ。メーターはない。自転車タクシーは荷台に2〜3人乗れる。速度は、徒歩のぼくに抜かされるくらい。疾走感はないが風情はある。大型バッテリーを積み、がんがん音楽を流す。ぼくだったらできるだけ軽くして、そのぶん速度を上げたいところだが。やがてこの街にも地下鉄や市電が走るのだろうか。だとしたらうれしいが、わりあい金儲けにあざとい運転手さんたちが案じられてならない。
7.キューバの酒場
- 暑い場所なので、冷えた飲み物がいっそう美味しい。サトウキビから砂糖を精製する際に副産物として造られるのが糖蜜。これを醸造したのがラム酒である。本場ハバナ・クラブは種類も多く、アメリカで出回る代用品と比べると、風味が格別である。
- そんなラム酒を、ライムとミントの葉をつぶしたグラスに注ぎ、ソーダで割ったのがお馴染みモヒートである。シュガーも入れるが、ヘミングウエイがそうだったようにぼくもシュガー無しのほうがさっぱりして好みだ。
- 酒場にはたいていバンドが入る。どんなに狭くても誰かが楽器を弾いている。毎昼、毎晩通った酒場はりっぱなカウンターバーがあって、そこでビールを飲み、テーブルに移ってモヒートをやりながらバンドの演奏を聞いていた。眩しい日差しがコントラストの強い影を店内に作り、そこにけだるいキューバ音楽をじんわり腹に染み込ますモヒートの味わい。くせになって止まらないほどである。ビール1本150円、モヒート1杯300円。1000円あればそれなりに酔える。酒にも、それから人生にも。
8.キューバの子ども
キューバの子どもたちの、あの目の輝きはいったいなんなのだろう?肉眼ではわからないのでファインダーを通してみようとカメラを向ければ、ポーズをつくる。純粋すぎるわけでもないようだ。親御さんたちも自分の子どもたちが写真をとられるのを喜んでいるようすで、ほらちゃんとして撮ってもらいなさい的に子に諭す。日本で同様のことをすれば、ぼくはロリコンオヤジとして捕まってしまいそうである。なにが汚れていてそうでないかは、いちど外に出てみるとわかる。キューバの大人は、子どもに対し真剣に叱る。我が子はもちろん、他人の子供でも。貧しいわりに犯罪が少ないのも、そのせいかもしれない。
9.キューバの買い物
- キューバを旅行中、買いたいと思わせるものはひとつもなかった。もっともぼくはどの国に行ってもあまりモノを買わない。その点は申しわけないと思う。そのぶんチップを多めにあげたり、ボラれてあげたり、ちょっと騙されてあげたりと、しっかり対価は払っているつもりだ。ハバナのような大きな街にもスーパーマーケットはない。
- 配給所のような殺風景な店内で、それぞれ1種類ずつ生活用品が売られている場所がある。商品と同じくらいハエのいる果物屋さんがある。ちょっとしたものを買うのだって、相当探しまわる必要があるし、さんざん並ぶ必要があるし、それでいて手にはいる保証もない。キューバ人にとって買い物は楽しくないだろうなと思う。
- この国に上陸して欲しいのはスタバでもマクドナルドでもない。スーパーマーケットとサプライ・チェーンである。欲しいものが手に取れて初めて消費欲が生まれ、そのために稼ごうという動機付けが生まれる。余談になるけどぼくがもしキューバで何か事業を始めるとすれば、「バッティングセンター」をやりたい。ものすごい需要があるはずである。
10.キューバ旅の予算
- かつてキューバへの航空運賃はエアカナダくらいしかなく、安くても往復で18万円くらいした。それが、この度利用したメキシコ航空は9.4万円であった。機体は最新のB787ドリームライナーである。メキシコシティで乗り換え、ハバナへはB737という小さな機体になる。
- 宿泊費はCASAを利用すれば一泊2千〜5千円程度。ドミトリー式なら千円しない。食事はパラダールと呼ばれる個人経営のレストランで1000円はする。ローカルの食堂でならその4分の一ほどで食べられるが、本来そこは外国人のためのものではない。食事代は日本とさほど変わらない。チップや飲み物を考えれば、それ以上する。
- 都市間の移動は長距離バスかタクシーを使う。鉄道はあるが主要都市を結んでいない。例えばハバナから400km離れたトリニダードへ行くには、乗り合いタクシー(コレクティーボ)でひとり片道2500円くらい。タクシーと考えれば安いが、後部座席は快適とは言いがたい。貸しきれば1万円だから、日本の鉄道より高くなる。
- 1周間の場合、航空機代10万円、宿代5日で2万円、食事代2万円、その他1万円で合計15万円+おみやげ代といったところか。距離のわりに安く行ける。考えて欲しい。日本人ならキューバ旅行は収入の1ヶ月か半ヶ月分で可能である。逆にキューバ人が日本へ行こうと思えば何年もお金を貯めなくちゃならない。そもそも海外への渡航は国で禁じられている。ぼくたちがいかに恵まれているか、この事実を謙虚にとらえ、感謝をもって訪れたい。
さあ、キューバへいこう。
あんなに絵になる風景は、世界にそれほどない。
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