中国の中産階級は15年で10倍に
2000年に香港に渡り、設立したばかりの会社でビジネスを始めたころ、香港のビジネスマンたちは口々に「中国の全人口12億人を相手にするんじゃない。そこで暮らす2千万人の中産階級がターゲットだ。彼らは裕福だが、もっと裕福になりたいと思っている」と言っていた。
あれから15年が経ち、2000万人だった中産階級は10倍になった。世界的金融大手クレディ・スイスの調査(2014年)によれば、中国の中産階級は1億9千万人、金融資産総額は22兆8千億ドルという。中国政府当局が発表する数字はデタラメが多いが、信用でならす国際金融機関の発表となると、さすがに誇大な数字とも言えない。なお同調査で日本の中産階級は6千2百万人。米国は9千2百万人というから、両国を足しあわせても中国のほうが多い。(クレディ・スイスが定義する中産階級は「5万~50万ドルの金融資産を持つ成人」としている)
また、かの「アリババ」のジャック・マー会長によれば、中国の中産階級はあと15年で3億人を超えると予測している。アリババといえば世界最大の大手電子取引会社、6億人ものアクティブユーザーを持ち、取引詳細やユーザー属性など膨大な個人データベースを保有する。その会社のトップの発言だけになかなか説得力がある。
一党独裁であり民主化とは程遠いといわれる中国。南シナ海の人工島や、尖閣諸島周辺の不法侵入などで、どちらかと言えばネガティブな印象が強い。偽物が横行し、公害もひどい。加えて反日国家で歴史認識ばかりを強調し、日本人に罪悪感を未来永劫、固定しようとする。ネガティブな部分はあいかわらずである。だが低い雲のように変化がめまぐるしい。
金持ち ケンカしない
むかしから「金持ちはケンカしない」という。
ケンカをしても、得るものより失うもののほうが多いからだ。好戦的にもみえる中国だが、果たしてどっちなのか? 中国でリッチになっているのは中高年よりも、30代〜40代の比較的若い層が多い。むこう15年でさらに1億人もの中産階級が増えるというのも、こうした人口ボーナスが寄与するところが大きい。高等教育を受けたインテリも多く、平均的日本人より独立心が強い。かつて中国大陸で一緒に仕事をしていた人たちと再会してみると、そのほとんどが会社経営者になっていた。
中国人の消費意欲の高さは、訪日して爆買いしているさまをみてもわかるが、あんなのはごく一部。それより日常的に利用されている中国大手通販サイトを覗いてみれば、そのスケールの大きさに圧倒される。
中国の「楽天」といわれる「淘宝網(タオバオ)」の1ヶ月間の利用者数は約6億人。びっくりである(日本のアマゾンと楽天はそれぞれ4千万人)。中国全人口の半分がオンライン決済の手段を持ち、一日あたり6千万人もの人たちが8億点もある商品から選んで買物をしているのだ。そのスケールの大きさにあたまがくらくらしてくる。つきあってわかったが中国人は日本人よりはるかにお金に厳しいし、びっくりするほど細かい。そんな彼らですらここまで利用するんだから、相応なセキュリティや配送インフラなどもあわせ持っているとみていいだろう。
いっぽうで中国国内ではフェイスブックやYoutubeが閲覧禁止されているなど、情報統制が敷かれている。政府にとって都合の悪い情報は極力排他し、反政府的なジャーナリストは逮捕し吊るしあげる。という事実も無視できない。たしかに人民日報電子版などをみる限りでは、政府の都合に合わせた報道がこれでもかと陳列されている。
中国人が見ているメディア
だが中国の一般の人達は人民日報などとうに無視しており、ネットニュースでは「澎湃 www.thepaper.cn」あたりに人気が集まっているようだ。個人的にも興味があったので登録してしばらくウオッチしているが、だいたいにおいて外国人が見ても比較的ニュートラルに思えた(意外と日本についての記事が少ない)。金融・経済ニュース・コラムも豊富で「中国の日経新聞電子版」という印象もある。中国を批判してばかりの人達から見れば拍子抜けしちゃうかもしれない。
生活に困らないだけの金融資産を持つ人口が、中国には2億人以上(中産階級+富裕層)もいて、さらに増加している。権利意識の強い中産階級層が、自分たちの生活レベルが下がるかもしれないのを対策も取らずじっとしているはずがない。今よりもさらに良い生活をめざし、より広範囲に情報アンテナを巡らせ、ババを掴まされないよう入念に行動するはずである。そんな彼らを相手に、中国政府はプロパガンダをタレ流しし続けられるだろうか?という気もする。彼らはまた積極的に国外に出かけ、観光をし、外国人とビジネスをする人たちでもある。間違った情報は死活問題である。情報を嗅ぎ分ける力は、彼らにとって生存本能ですらある。その意味でも中国人のほうが、そのへんの日本人より世界情勢に明るいんじゃないかと思う。
また中国人はLineの代わりにWechatを使って友人などとやり取りをしているが、月間のアクティブユーザーはなんと6億人もいる!さっそくぼくも登録したが、そのとたん、2000年〜2006年に共にビジネスをしていた香港人や中国人、中国に済む日本人たちから怒涛のように友だち申請を受けた。久しぶりの再会、つながり。これはもうネットユーザーでWechatを使っていない人を探すほうが難しいということだ。Wechatはチャットだけでなく、さまざまな一般・専門情報の配信がある。これだけで必要な情報は全て入手できそうである。こうした配信アカウントだけで1300万もある。政府当局が都合の悪い情報をいかに隠蔽・改ざんしようとも、処理がぜんぜん追いつかないのではないか。
中国ではもう反日デモは起きにくい
かつて中国では、反日の名を借りた官製デモが頻繁にあったが、いま同様のことを扇動しても大衆は集まらないのではないか。日本を一方的に批判するには、あまりにも日本へ訪れる人が周囲に増えた。WechatやYouku(動画サイト)で個人がリアルタイムに次々に日本のようすを共有するから、「日本人が中国人を貶めている」などというのがデマだとわかる。政府があることないこと日本の悪事について訴えても、説得力を失いつつあるのだ。
- 中産階級が2億人いて、15年で3億人まで拡大する
- ネットを積極的に使うユーザーが6億人以上いる
このことはぼくたち日本人にとっては朗報でありチャンスである。ある評論家が言うように中国には独自技術も少なく、人件費の高騰もあり「世界の工場」としての価値はなくなったのかもしれない。だけどこれほどの成長市場が中国以外のどこにあるのだろう。ASEANの成長も楽しみだが、中国ビジネスの可能性について探っていきたい。
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