モロッコの治安
だいたいにおいてモロッコ人はサービス精神が旺盛である。難しいのはそれが好意なのか、悪意によるものかの見極めだ。プライドが高い人が多く、それゆえ他人に対してフトコロが深いようにふるまう。路に迷えば、誰かしら助けようとしてくれる。ひったくりや置き引きのたぐいにも遭わなかった。むしろ置き忘れたものを後ろから走って届けてくれるほどだ。まあ大体において親切な人が多い。親切なひとは同時に相手にも親切を求めてくる、それをうっとうしいと思う人にとってはうんざりさせられることだろう。
問題は自称ガイドである。フェズやマラケシュなど大きなカスバではたいてい路に迷う。GPSも役に立たない。迷っているとあちこちから声がかかる。自称ガイドは「ついてこい」と先導し、どんどん先を歩く。純粋に好意のこともあるが、ガイド料を要求する。仕方なく小銭を渡そうとすると、コインじゃない、札をよこせという。無視すると執拗に罵倒をあびせられる。まあ、かつあげされるよりマシだけど。
それから「知らない」と言えない人もやっかいだ。わかりもしないのに教えてくれる。自信たっぷりに。でも言われた通り行ってみると違う。悪意はないのだろうけれど、善意の希望的観測も困る。時間と労力に愛想笑いも凍りつく。
ともあれ治安は割といい。自称ガイドかわし用に、予め100円ショップ等で、ボールペンや電卓など、ちょっとした小物を仕込んでおくといい。手助けしてくれたときのお礼や宿のチップ代わりになるし、土産物屋で物々交換プラスアルファくらいの威力を発揮してくれる。
▲ 雨のマラケシュ マラケシュ ジャマ・エル・フナ広場
というわけで、治安は比較的良い。夜間、女性一人で歩くのは避けるべきだと思うけど。
- 治安度 ★★★★☆
モロッコの食事
▲ オレンジサラダ : オレンジの輪切りにシナモンとパウダーシュガー。シナモンがオレンジにこんなにも合うとは!
旅行中はつい偏食しがちで、そのせいか体調を崩すことも多いのだけど、ことモロッコにおいてはその心配はないように思う。農業国ということもあってか、野菜が安くて豊富に食べられる。モロッコ風サラダにタジン鍋。つけあわせのオリーブやくだもの、ヨーグルト。冷たいヨールグルとのクスクスなんてのもあった。肉は煮込みや串刺しが一般的。余分な脂が抜けて、肉質がこう「みしっ」と詰まっている感じがする。味付けは薄め、地方ごとに違うんだろうと思っていたら、どの地域もたいてい薄味だった。サラダがまったく味がしないこともあった。観光客向けの店は、味がしっかりしていてる。ドイツ人なんてまずあの薄味には耐えられないだろうから。
ジュースは基本的に生しぼりであるのもいい。ビタミンと繊維がバッチリ採れる。残念なのはほとんどの店が酒を置いていないこと。ビール好きには辛いところだろう。アルコール抜きも踏まえて2週間もいれば体質が変わることうけあいだ。
おかげで帰国後、21%近くあったぼくの体脂肪率は、帰国後16%台まで減っていた。よく歩いていたせいもあるが、食事によるよい影響だと思う。旅に出るといろいろ手を出し太るものだけど、モロッコに限ってはそうならなかった。ただしスイーツの類いはリミッターがいかれてるほどに甘い。ちなみに日本レストランはただの1軒もみなかった。
- 食事度 ★★★☆☆(健康には良いがアルコール好きには辛い)
モロッコ旅の予算
モロッコ人の平均年収は30万円。経営者レベルでも200万円ほどである。日本人なら月収ぶんを、彼らは年収として得ているというわけだ。じゃあ食費も10分の1で済むか?と思うが甘かった。ちょっとしたレストランで食事をすれば、日本と大差ない。チップの習慣があるから、むしろそのぶん高く感じるかもしれない。サラダ150円、タジン鍋400円、ケフタ(ミンチ肉を焼いたもの)400円、コーヒー60円、オレンジジュース100円といったのが、滞在中利用したレストランでの平均値である。倹約すれば1食100円ですむが、あれこれ注文すればすぐに1000円以上になる。安いがローカルプライスほどではない。
宿はリャド(モロッコ式民宿のようなもの)で一泊平均3000円(ダブルまたはツイン)。ホテルならもう少し高い。熱いシャワーが部屋につき、シーツは清潔であることを条件にすればこんな感じだ。上を見ればきりがないのは他の国も同じ。Airbnb(エアビーアンドビー)よりも、Bookingコムで探したほうが失敗が少ない。比較的物価の安い国でのAirbnbは、当たり外れが激しすぎる。総じてモロッコの宿代はヨーロッパ諸国の半額、タイのバンコクとチェンマイの間くらいといった感じか。フランスの植民地だったわりにはマットレスは固め、クローゼットのドアなどは反っていたりで閉まらない部屋が多かった。
▲ メクネスで泊まったリャド、タイルの装飾が美しい実に400年前(!)の建物である。
移動費はタクシーが2km範囲で200円程度。メーター付きは少なく、ひとりあたり換算される。「20ディルハムだ」と言われれば、3人乗れば60ディルハムかかるというわけだ。だから途中で人が乗ってきてもおどろかないように。鉄道の質はスペインやポルトガル同等、快適である。運賃も安い。およそ3時間の移動距離で1等車で1500円程度、2等車ならその半額である。長距離バスは路線にもよるけれど100kmあたり200円といったところ。座席やバスの質を考えれば、東南アジアよりもやや高め。冷房をがんがんかけたりはしないのがいい。
▲ カサブランカ〜メクネス間の鉄道
- モロッコの食費 ★★★☆☆
- モロッコの宿賃 ★★★★☆
- モロッコ内移動 ★★★★☆
モロッコの美容度
▲ ローズウオーターやローズオイルの製造工場に山と積まれたバラ
モロッコはイケメンが多い。なにをもってイケメンか? とする定義はそれぞれあるが、まず体型がスマートである。目鼻立ちがはっきりしており、肌がキレイで歯並びが良い。清潔な服装で、髪型もさっぱりしている。もちろんそうでないひともいるけれど、例えば外国からの観光客と彼らが一緒にいると、モロッコ人のほうがスマートにみえることが多い。これは同じ北アフリカのアルジェリアやチュニジアにも同様であったから、マグレブ諸国全体にいえるのかもしれない。子供からして美しく可愛い。女性も美人が多い気がする。総じて世界でもっとも整形手術を必要としない国のように思える。
▲ どの子供も端正な顔つきをしている、ただそのへんにいた少年
タイにも通じるところだけど、モロッコ人は着用する服がとてもキレイめである。さっぱりしていて細部まで行き届いている。体臭もほぼ抑えられているようで(他の西洋人や中東人のほうが匂いがきつい)、それを裏付けるかのようにコスメの類が街のあちこちで売られている。さすがはアルガンオイルの国である。ローズオイルやガスールの産地としても有名なモロッコであるけれど、生活にうまく採り入れているように思う。たとえ年収30万円だって、あれだけおしゃれに気を配れるのだ。おしゃれ意識は高く、おしゃれコスパも相応に高い。美容院は本屋よりずっと多い。また男女兼用の店はなく、男性用は通りに面すなどしてオープンであるが、女性用の店は奥まって中が見えないようになっていた。
▲ アルガンの実から種子を取り出し、オイルを抽出するため砕いているところ
ハマム(大衆浴場)もいたるところに見られる。湯を沸かす燃料は昔ながらの薪である。ハマムの裏には、薪が高く積み上げられた一角があり、中でそれを火にくべる男たちがいる。シェフシャウエンでは実に1549年に建てられたハマムがいまも営業している。1549年といえば日本では信長の時代、ちょうどキリスト教が伝来した年である。最初の薪がその年にくべられ、いまもくべられ続けているのは感慨深いものがある。そのように人々は風呂で汗を流し垢を落とすことを習慣としている。ふつうのおじさんですら肌がつるつるなのも、にべなるかなと思う。
▲ これがそのハマム、営業開始が1549年と紹介されていた
アルガンオイルの他、サボテンオイルなども売られていた。アルガンオイルよりも高価だが効き目もより高いようである。
- 一般の美容度 ★★★★★
モロッコ、Tea or Coffee ?
▲ 砂漠の入り口にあるホテルで飲んだアッツァイ
モロッコではアラビア語で「アッツァイ」と呼ばれるミントティーがポピュラーである。グラスで出されるから、直に持ち上げるととても熱い。このアラビア語もそれで覚えた。ポットを高く持ち上げ、うまいぐあいにグラスに注ぐ。お茶を空気となじませるためだ。味が良くなるという。日本でも茶筅で泡立てたりするからわかる気がする。
意外なことにモロッコでは茶葉が栽培できない。
茶葉のほとんどは中国からの輸入であり、輸入量はなんとモロッコが世界一である。濃いめの中国茶に茎ごと入れた生ミントの葉を煎じて(ポットかグラスに直接突っ込んで)飲む。北部や中部より、砂漠のある南部のほうが味が濃かった。もともとはミントの葉に砂糖をたっぷり入れて飲んでいたのを、18世紀になって英国が中国茶をほぼ独占的に売り込んだのがきっかけだという。はじめこそお茶は興奮剤であるからコーランの教えに反するのではないか?という意見があったが、すでにコーヒーは飲まれていたしと、なし崩し的に普及していった。
ミントティーのイメージが強いモロッコではあるが、コーヒーなら10世紀頃からすでに飲まれていた。あまり知られていないが、カフェの歴史はヨーロッパよりイスラム圏のほうが古い。そのせいか、コーヒーもとても美味しい。値段はカフェ・ノワール(ブラックコーヒー)がアッツァイ同様 7ディルハム(80円)、カフェオレが10ディルハム(115円)というのがだいたいの相場である。スターバックスもイリーもある。
▲ マラケシュの広場に面したカフェで飲んだコーヒー 熱くてもグラスに注がれる
酒を呑む風習がないモロッコは、カフェが大衆酒場を兼ねている。店内は100%男たち。なんとなくホルモンの強そうな濃い男たちが、通りに向かったテーブルの前にがん首並べて座っている。だから前を歩くときはちょっと緊張する。ぼくでもそうだから、女性だとちょっと堪えられないのではないか。じろじろと男たちの視線には遠慮がないし、強すぎて「目で脱がす」勢いがある。
Wi-Fi設備かどうかは運しだい(まあ日本も似たようなものだけど)。自分たちは持っていないのに隣のカフェのパスワードを覚えていて、客に聞かれたらちゃっかりそれを教えていたりする。速度は遅く、チャット程度ならいいが高画質の写真のアップには向かない。ADSLだから上りが遅い。そのうえ電波をタダ乗りされてるから、キャパ以上にアクセスがある。原付バイクに5人乗っているようなもんである。
- カフェの快適度 ★★★☆☆
モロッコまとめ
▲ 写真はアイン・ベン・ハッドゥ遺跡 映画グラディエーターのロケ地としても使われた
モロッコにある世界遺産数は9つで世界第13位、アフリカ諸国に限ればいちばん多い。これが同じ国かと思うほど、地域ごとに多様性があって、各地を周っていても楽しい。観光客数は10年間でほぼ倍増(6.5百万→11.5百万人)しているのもこれを裏付けている。イスラム教国なので、基本的に殺人やレイプの類は少ない。ただし観光客を狙ったひったくりやボッタクリは都市部には多いようで、被害に遭われた方もそれなりにいる。ぼくは旅行中、危ない目にあったことは一度もなかった。サハラ砂漠に旅行に来ていた他国からの観光客たちにも聞いてみたが、みな被害らしい被害には遭っていないようだった。路先案内ガイドには戸惑っているようすだったが。
日本からモロッコを隔てるのは距離のほかに、宗教と言語がある。ヨーロッパの最西端よりさらに遠く、日に五回のお祈りの時間に夜中であろうと叩き起こされる。英語は通じにくく、通じればそれはそれで観光プライスと笑顔が割増となる。圧倒的にアラビア語とベルベル語が通じ、次にフランス語、北部ではスペイン語が通じやすい。日本語を喋る人は英語以上にアヤシイ。やたらとアキハバラ〜、チョットマッテネ〜、マタ来ル?イツ来ル?といちいちうるさい。
▲ バラの街で
以上を踏まえれば、物価は概ねタイのチェンマイ並みで、食事も治安もまあまあと過ごしやすい。砂漠もあるしカスバもアトラスもあって、見どころに事欠かない。日本ほどではないが、四季だってある。インフレ率は4%とマレーシア並みに安定。日本人はビザ無しで90日滞在、不労所得(年金、金利収入など)次第で1年〜10年の滞在許可が得られる。4DKのコンドミニアムが3万円程度で借りれたりと、月8万円もあれば2人までは暮らせそうだ。永住はせずとも、物価の安いモロッコに暮らし、たまに南ヨーロッパを中心にドライブにでかけるといった暮らしが楽しめそうである。
食事やコスメなどでアンチエイジングな暮らしが送れそうだが、病気や病院については注意がいる。特に女性は診察は女医でなければならず、時間や場所も制限があるようす。保険も健保というより海外傷害保険の適用の可否くらいしかない。この点は何かと不利なのは否めない。モロッコに300人強しかいない邦人は少なすぎるのでは?と当初思ったものだけど、日本企業の進出も少なく、日本食レストランもめだたない。あんがい妥当なのかもしれない。
旅をするにはとても良い国だけど、暮らすにはもうひとつ強いメリットが必要である。
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