安倍政治を許さない
アベ政治を許さない
というゼッケンをつけ、ビラを配っているシニアたちがおなじみになってきた。駅構内外や街頭、さまざまな場所にいる。寒い日などは魔法瓶のお茶などをみんなで回し飲みししたりと、どこかほほえましい。
彼らの手渡すビラを受け取る人はほとんどいない。たまに同じようなシニアの人にがんばってねと声がかかる。あとは知らんぷりか、ときおり道行く人に睨まれてもいる。甲高い声でスピーカーでがなるからだ。耳が遠いのか、ボリュームが異様に高い。それでも寒風吹き荒む日などはほんとうに寒そうで、風邪などこじらせなければいいのにと思う。いったい この人たちは何をやっているのだろう? 小林哲夫の著書『シニア左翼とは何か』に詳しいので引いてみる。
国会前の安保関連法案反対運動は SEALDsの学生がメディアから注目されていたこともあって、かなり目立っていた。このため「学生が中心になって反対した」と報じられてきたが、実際は学生よりも「年配の人たち」のほうが多かった。SEALDsが「民主主義を守れ」と叫ぶ。そのSEALDsの学生に従うように、後方ではおじいさん、おばあさんが列を作って、そのコールに合わせて拳を振りしめ声をあげていた。【小林哲夫著『シニア左翼とは何か』朝日出版社】
シニア左翼とは60~90代の、もと全共闘世代や60年安保世代を中心に「反政権」「反政策」を信条とする人たちだ。原発稼働に反対し、安保法案に反対し、憲法改正に反対する。反原発と反憲法改正はまったく別もののはずだが、彼らからすればほぼ同義、つまるところ安倍総理のする事なす事全てが気に入らない。それで「反安倍」で結束する。2011.3.11東日本大震災以後ににわかに活動が活発になり、周囲に危機を煽りながら原発をやめさせ、沖縄基地移設を止めさせながら活気付いてきたが、安倍政権が誕生してからは俄然張りきる場面が多くなった。それで安保法案反対を機にSEALDsに代弁者を見つけ、残りの人生をかけて「反安倍」に命を燃やす。燃やす命をようやく見つけたというべきか。
シニア左翼として頑張る元学生運動家たち
シニアは熱い。国会前の集会では警察隊に踊りこみ、警察車両をひっくり返そうと揺らし始める。それを「なにやってるんですか!」と学生に注意されるシニア。かつては機動隊に火炎瓶を投げ、角棒を振り回していた強者たちも、孫のような若者にたしなめられては従うほかない。内ゲバで仲間を殺され、死の意味を生涯探してもいたが、今の若い人は、自分たちがしたように内ゲバで殺し合いなんて絶対しないだろう。革命は暴力を伴うと信じる元活動家シニアにとって、SEALDsの礼儀正しすぎる。「近頃の若いモンは・・」と武勇伝を話しそうになる。いやすでに自慢してしまったかもしれない。国家の犬であるデモを取り締まる警察官もまた礼儀正しい。「大丈夫ですか?」「お怪我はありませんか?」と転んだシニアに声をかける若い警察官に、かつての学生闘志たちは一瞬、向かう敵を見失う。
夏の盛りにおける国会の座り込みも、シニアたちにはさすがに身体に応えた。SEALDsメンバーは学校があるので昼間は隊列を離れるが、シニアたちは24時間体制、焼けるアスファルトに遮るものはない。そこに「昔ほど鉄棒を振り回す体力はないが、動かないことには自信がある」という座り込むシニアたちである。学生運動当時は大人たちに近所迷惑だと叱られ、いまはSEALDsの学生たちに節度がないと叱られる。幾つになっても叱られるよと自嘲気味に笑う。過激なシニア左翼は文壇にも多い。瀬戸内寂聴などはうっかり「国会前で老人が10人くらい死ねばよかったのよ」と口をすべらせる。炎天下の座り込みで死人が出れば、安保法案可決どころではなくなるだろうから、という読みだ。
【しんぶん赤旗より】
「警察を見ると殴ってやりたくなる。こんな日がくるとは思ってもみなかった」という元日大全共闘メンバーは感激する。国会突入は学生時代からの夢でもある。対する警察は「高齢者が怪我をしないよう」と気遣いながら警備する。そんな中、SEALDsが叫び、踊りと声を合わせる。それを太鼓をたたいて従うシニア。なかなか楽しそうである。国会前にあれだけ鎮座されれば他国なら放水車の水圧で粉砕されるだろう、エスカレートすれば催涙弾と火炎瓶が応報するところだ。左翼の支持する中国など社会主義国家なら発砲で死人が出たかもしれない。そう思えば、やっぱり日本でよかったと思えてくる。
中国の軍事的挑発にはなんら批判をしないのに、応じる対応を政府が示せば過敏に、さらに過激に反応するシニア左翼。戦争反対なら仕掛けてきそうな国全てがターゲットになるはずだが、最も穏健な自国のみをターゲットにする。平和憲法をノーベル平和賞にと嘆願し、徴兵制で子どもたちが兵隊にとられると危機をあおる。反安倍政権という意味で志を同じくする中国や韓国、北朝鮮はこうした日本シニア左翼に密かにエールを送る。「日本死ね」などという品のない書き込みですら、政権打倒に最大活用する野党にしても同じこと。
左翼党派とはなにもの?
左翼党派はさまざまある。
その中でも中核派や革マル派は派閥が大きい。中核派の天田書記長は語る。
「帝国主義世界戦争が始まろうとしている。階級的労働運動と国際連帯の力で世界戦争を絶対阻止したい。またさまざまな戦線で中核派の拠点を作っていきたい。自衛隊の中に中核派の細胞を作り、戦争をやめさせるような運動を展開する。農民、漁民の中にも中核派を作る。医師、弁護士、大学教授などでも私たちの仲間を作っていきたい」【小林哲夫著『シニア左翼とは何か』朝日出版社】
同じく新左翼党派である社青同解放派のメンバーは語る。
「安倍打倒の動きは面白くなった。国会前に集まる大衆の怒りは収まらない。これをどう全国に広めていくかです。いま資本主義が大変な状況になっている。だからといってレーニンが掲げた社会主義をそのまま掲げていいのかといえば、しっかり考えねばなりません」【小林哲夫著『シニア左翼とは何か』朝日出版社】
シニア左翼による社会運動。
60年安保世代の後期高齢者と69年全共闘世代の前期高齢者は、就職してから定年までのあいだはがむしゃらに働いていたが、あるきっかけ(東日本大震災の最中に起こった原発事故)で、とたんに反核運動をやったときの血が騒ぎ、安保法案可決をきっかけに反戦運動の決起が蘇った。SEALDsの学生たちに往年の自分たちの姿を重ね、それじゃ生ぬるいだの礼儀正しすぎるだのと小言をもらしつつも、まだこんな骨のある若者がいたなんてと目をうるませた。余生をかけて戦う相手は安倍政権。敵は強大な方が壊しがいがあり、生きがいがある。
ぶれない政党として見なおされる共産党も、SEALDsには一目置く。機関誌「赤旗」でも再三特集を組む。シンパは世代を超えて「反安倍政権」をわかちあう。共産党はいまだに反国家勢力として警察にも睨まれる存在。SEALDsメンバーの親御さんは、就職に不利になるのでは?と不安である。
戦争を起こさないためにと、悲壮な思いで安保関連法案に反対するシニアたちの気持ちはとても純粋だ。孫のような若者が、やがて戦争にとられるのではと本気で心配しているのだ。それは間違いない。その純粋な思いをいっさい集めて「打倒安倍」に転嫁する第三の勢力。そうした動きもあるかもしれない。
安倍政権に限らず、その時々の政策は是々非々である。すべて良い政策もなければ、どれも悪い政策もない。だから良いと決めつけ無批判に政権を支持するのはおかしいし、悪いと決めつけなにをやっても批判するのも無理がある。どちらも悪意ある勢力に利用されるだけである。
人生最後を輝かせたい
きょうも駅前でシニア左翼を見かけた。乗り合わせた電車の中で「アベ政治を許さない」というバッジを外し、さっとポケットに隠す姿があった。隠れキリシタンのようであり、なんちゃって不良少女のようにもみえた。同居する家族に集会参加を反対されているのかもしれない。
社会運動はいつまで続き、どうなれば成就するのだろうか。その時の日本はどうなっているのか? そういう自分も、一体感を求めて社会運動に参加してしまいそうでコワイ。人にはそれぞれ、最後の人生の輝かせかたがある。日本もまた、それによって輝くんだろうか?
左翼運動で輝いた国という国の想い出が、あまり良くないのが気になるところだ。
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