祖国を脱し隣国で自国へ爆撃を要請する元大統領
長年、行きたい国リストの上位にあるイエメン。
ところがいまなお政情不安、どころか連日爆撃を受けているありさまで、とてものんきな旅人を受け入れてくれそうな状況にない。いったいどこの国がなんの恨みがあってイエメンを爆撃し続けているのか? ひどいじゃないか、と思う。こうしているいまも無辜の民たちが殺されているのだ。
イエメンはいまなお政府軍と反政府軍とのあいだで内戦状態にある。かつてのシリアのようである。シリアはそのどさくさにISISにのっとられたが、イエメンはどうなのか? アメリカとアラブ連合軍(サウジアラビア、エジプト、ヨルダンなどなど10カ国)が敵としているのはイエメンの反政府軍フーシ派である。政府軍の元大統領、ハーディー氏はとっとと逃げ出し、いまはサウジで亡命中。そこで自分の国に爆撃しろと懇願しているのだから、ひどい為政者である。
中東の最貧国のひとつ、イエメン相手に寄ってたかって爆撃している姿はあまりに醜い。2015年6月には首都サヌアにまで爆撃を開始し、世界遺産にもなっている中世の美しい街や3000年も昔の遺跡が廃墟になりつつある。この街並みこそ、ぼくが長年訪れたかった場所なのだけど。
MOHAMMED HUWAIS via Getty Images
救助も支援もひとびとの関心次第
瓦礫の下には助かる命もあるはず。しかし、援助に手を差し伸べる国はない。他国で被災する人あれば、われ先に救助隊を派遣するいわゆる先進国の善意は、こんなにも薄っぺらいのかと思わずにいられない。パリテロ事件の時にはフェイスブックのプロフィール写真にフランス国旗を重ねる人もいたのに。同じころロシアの旅客機がテロ攻撃に遭い、パリ以上の被害者が出たが、ロシア国旗を重ねた人はついに見なかった。
米国などはイエメン援助どころか、破壊の首謀者である。もちろん同盟国日本から優秀な救助隊を送れない。人の命は、そのかけがえのなさより、まずは政治力にゆだねられるのだ。人の善意も行動も、テレビのニュース枠を得るかどうか次第というのが、悲しい現実である。
都市を占領するのに空爆だけでは不可能である。何万トンも爆弾を落としてみせ、屈服させられるなら兵隊は要らない。だが地上軍の派遣にサウジアラビアは躊躇する。原油安が常態化するいまは、サウジとてもはやかつての金持ち国ではない。一説によれば5年以内に崩壊するとまでささやかれる。資源国ゆえの怠慢、漁場を持つより魚の釣り方を学んでおくべきだった。それにしても世界有数の金持ち国、イスラム教のメッカであるあのサウジが崩壊、まさか!? とも思うが、一度タガが外れてしまえば、もともと王政が民衆を押さえつけていたツケもある。一気に瓦解するかもしれない。爆弾をいくら落としても敵は堕ちないが、民衆が本気で隆起すればあっという間に王族など滅びてしまうのだろう。
世界でもっとも危険な男、それはサルマン王子
イエメンに対するリンチ。
打ちのめされればされるほど人々の恨みは強くなり、敵の敵は味方とばかり、あらゆる手段を使って侵略軍(イエメンからアメリカ=サウジ・アラブ連合軍)に対抗しようとするだろう。アルカイダだってISISだって手を組むかもしれない。結局、彼らに利することばかりしている。
短気なことで知られるサウジアラビアのサルマン王子(国防大臣)の名前は今後、あちこちのメディアに登場する予感がする。イランとの国交断絶からも見られるが、あの火のような気性の荒さは、世界大戦への導火線にさえ引火してしまいそうである。
▲ サルマン王子 英誌「インデペンデンス」は彼を「世界でもっとも危険な男」と評した。金正恩よりもか?
SMAP解散や甘利大臣辞任のニュースにかき消され、なかなか目にも耳にも届かないイエメンのこと。事の成り行きによっては、とんでもない火薬庫であることはぜひとどめておきたい。