だらしなく伸びた髪をきってもらいに美容院に行く。
その美容院は自宅から徒歩20分のところにあり、開店は朝の八時半、直後に入店すれば休日でも混む前にゆったりやってもらえる。広い店内に他に客もいず、朝の陽がななめにさしこむ店内でチョキチョキとハサミの音がここち良い。
指名するのは美容師にしてはガタイのいい24歳男子。切る技術はそれほどでもないけれど、あたまの洗い方が絶妙で、至福のひとときが味わえる。太くがっしりとしたゆびが、がしっと頭皮をつかみ、わしわしとリズミカルにマッサージしながら洗いあげてくれる。
かゆいところはありませんか?と訊かれれば、ぜんぶかゆいよ、といつもとおなじ返事をする。やれやれと美容師はもういちど念入りにマッサージし、ぼくはさらに至福を味わう。
この美容師を指名するもうひとつの理由は、ほとんどぼくに話しかけないこと。初めて彼にやってもらったとき「実はあまり会話が得意じゃないんです」と告白され、ぼくもあまり話しかけられるのは得意じゃないと答えたのがきっかけだ。以来、たがいの了解事項。店内はあいからわらず静かにジャズピアノが流れ、窓から差し込むななめの陽光が塵を反射させながら床にシャープなひだまりを作っている。そんなひだまりが隠れないうちに髪を乾かしてもらい、店を出た。
▲ 他に客は誰もいない朝一番の店内
カットとシャンプーで2000円。
もうしわけないくらい安い。
ちびきちのトリミング代の半分もしない。
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