予想通りAPEC後に中国は動いた。
香港の各地を占拠する民主派デモ隊の強制撤去である。新聞報道によれば11月25,26日両日の逮捕者は159人。リーダーの黄之鋒(ジョシュア・ウォン)と岑敖暉(レスター・シャム)もしょっぴかれた。
出口が見つからず膠着状態だった民主派の道路占拠。しびれをきらし政府機関に殴りこみにかける一派が出たりと、いまひとつ統制がとれていない面も見られた。先行する台湾の学生デモでは、リーダーの林飛帆(リン・フェイファン)を中心に運動が統率されていたのとは対照的である。
香港と台湾。
違いはリーダーのカリスマ性だけではない。世論もまた統一されてはいない。ひとつは市民の生活への影響。台湾ではデモ隊は主に立法院内に占拠し市民生活にはほとんど影響がなかったのに対し、香港の場合は市民の足に影響し、そこに店先を並べる人たちの商売の妨げとなった。ちょうどぼくが香港に訪れた11月初めに香港理工大が発表した世論調査では、回答者の73%が市内占拠に反対とあった。しかもギャップは世代間にもある。18〜29歳は占拠賛成が59%に対し、60代以上はわずか2%。あれから数週間が経ち、この数字はさらに反対に傾いていたかもしれない。
これは中国との距離感も影響するのだろう。台湾は上から下まで一定のわりあいで中国を好ましく思っていない層がいる。台湾も自分の領土だと言いはる中国に対し、はっきりNOを突きつける独立派の存在。それは抗議デモを続ける学生たちの強いサポーターでもあった。
いっぽう香港は複雑だ。
まず香港のトップである行政長官は中国の雇われ社長でしかない。市民にNOは言えても、中国に絶対NOと言えない立場。加えて、10年前から香港に大量になだれ込む中国からの移民と投資マネー。おかげで香港は不動産価格が高騰し、信じられないくらいの家賃に跳ね上がった。概してマナーの悪い中国人。それが700万人口の香港に年間400万人が出入りする。こうした中国人を迷惑に思う層と、むしろありがたいと思う層とのあいだにもギャップがある。
極論すれば「カネか、自由か?」
豊かな中国人から流れるマネーで潤う「持てる人」からすれば、カネは目の前の現実で毎日をうるおしてくれるが、自由がなくなるのは少し先の話だし、もしかしたらそれほどひどくはならないだろう。などと考えるかもしれない。先日訪れた旺角の占拠区では、ほとんどの店がシャッターをおろしていたが、唯一、宝石店だけは開いていて、店内で中国人たちがゴールドやヒスイを物色していた。
道路占拠違反法という法律をあとから作り、「法にのっとり処罰した」と強制排除を正当化するところも、いかにも中国っぽい。そんな中国はこのたびのデモも、ひいてはウイグルやチベットのデモも西側の工作だと信じているふしがある。それで被害者面して、荒っぽいことをしても許される免罪符にしている。香港民主派の逮捕者たちは、それほどひどい拷問を受けることなく釈放されることを望むし、たぶんそうなるだろう。催涙弾をつかったことでかえってデモ参加者を増やしてしまった当局には、反省もある。
いまは少なくとも香港は中国とちがう。中国本土との違いはやはりぼくたち「外国人の目」。それから、なにより自由を知り尽くしている香港市民。次点は、いまのところまだそれほど制限がかかっていない「通信環境」である。「国際金融都市」というメリットは、かつてほどではないかもしれない。いまや上海がそのポジションに食い込んでいるからだ。
香港が今の香港であるためには、今がぎりぎりの節目なのかもしれない。
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