▲ 小学校の頃のなおきん(撮影:オトン)
いまはむかし、ラジカセなるものがあった。
これ一台で、ラジオ、カセットテープ再生、録音ができるという画期的な一台。少年たちの心をときめかせ、のめりこませた。できることはスマホの機能の10分の1もないが、当時の少年にもたらすラジカセの特別感はちょっとことばでは言い表せない。このきもち、電子フラッシャー付き自転車をおぼえている諸兄ならきっと、共感してもらえると思う。
中学入学のお祝いに買ってもらった最初のラジカセはアイワ製のBCL255だった。37年の時を経てもモデル名を忘れていないところに、あのときめきの深さがある。うれしくて、まいばん抱きかかえるようにして眠っていた。このラジカセがほかのラジカセとちがうのは、世界中のラジオ放送が受信できる短波ラジオであること。モデル名のBCLは「短波放送用ラジオ」の意味である。小学校を卒業したばかりのぼくにとって世界は未知であり、どうあがいたって手の届かない場所であった。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ソ連、オーストラリア・・・ 名前を聞いたことのある国はいくつもあるけど、行ったこともなければそこの国の人の話を聞いたこともない。だけどこのラジオ、ダイアルさえ合わせれば地球の裏から発信している放送をきくことができるのだ。そのことにぼくが、どれほどときめいたことか!
▲ AIWA BCL255 1974年ごろのモデルだったと思う
ロッドアンテナをめいっぱいのばし、方向を定め、ダイアルをミリ単位でまわす。シャーっという雑音にまじり、かすかに音楽が、声が、なにかの音が聞こえる。知らない国の知らないことば。なにを言っているのかさっぱりわからないけれど、生身のひとのこえ。それがぼくのラジオに届き、スピーカーを鳴らす。機械に強いほうではなかったのでしくみはよくわからないけれど、もうそれだけで夢中である。昼間よりも夜間、深夜のほうが感度が良かった。時差があることをそれで知り、くるくると地球儀をまわしながらラジカセに耳をあてていた。その後旅好きになり、かれこれ20年以上も海外で暮らす身になったのは、まちがいなくこの時の経験だったと思う。イギリスBBCの放送を録音し、よく朝ともだちにきかせる。スゴイよね!目をきらきらさせるぼくに、「なに言ってるのかわかんないし、雑音ばかりでアタマがいたくなる」と、ともだちはそっけない。地球の裏からとどく電波なんだ、雑音の多さはそこまでの距離のあかしじゃないか。ロマンじゃないか。そういうぼくに同意するやつなんかいなかったけど、まいばんぼくはふとんをかぶり、旅をするようにダイアルを回すのだった。
変わった子だったかもしれないが、世界をラジオでときめくくせはイイ齢とってもまだ治らない。
今日のひろいもの
全世界230国(地域)、10万ものラジオ局をたばねる総合インターネットラジオポータル。あらゆるスマホ用アプリが用意され、PCのWEBページからでも楽しめます。ぼくも3年ほど前から熱烈ユーザー。数あるインターネットラジオアプリのなかでもっとも使いやすいし、お気に入りのラジオ局を探しやすいから。局の探し方はジャンルごと、住んでる地域ごとなどさまざまあるけど、ぼくはあえて国別で探します。これまで行ったことのある国や、これから行こうとする国のローカル放送はもちろん、いま紛争中のシリアやイラク、ウクライナなど。そんな国でもちゃんと陽気なキャスターが生活情報を放送し、はやりの曲を流しています。どっこい人々はたくましく生きているんだなあと思わせます。放送を通じて気に入った曲があれば、iTunesボタンを押して速攻で曲をダウンロードし、しばしヘビロテ。ふとんをかぶってラジオを聞いていたあのころのぼくに、このことを話してもきっと信じてもらえないでしょうね。
最近のコメント