北方領土が戻ってくるかもしれない。
報道されているウクライナ情勢を知るにつけ、あのロシアが領土返還などするわけがないと思うのが自然。だけど、いま世界の大半を敵に回して身動きがとれないロシアだからこそ、ある意味日本にとっては好機といえる。まして相手はあのプーチン大統領。同じ愛国者として安倍政権との関係もまずまずである。もちろん諸説あるが。
本来日本の領土であるはずの北方4島が返還されるのは喜ばしい。悲願だったのだから。あの島々で生まれ育った日本人も、かなりお年を召されているとはいえ、存命されている。どんなに故郷が恋しいだろうかと思う。両親が彼の地で永眠されているならお墓参りもされたいことだろう。だがそれは同地でいま暮らしているロシア人とて同じ。あの島で生まれ、結婚をし、子を育て、人生を全うされているのだ。
ある日この島が日本の領土に編入される。
じゃあそこへ暮らす人々はどうなるのだろう?とぼくは思わずにいられない。 その数、4島合わせて1万6千人。終戦当時、そこに暮らしていた日本人(約1万7千人)とほぼ近い。択捉島に約6千人、国後島に約7千人、色丹島に約3千人(歯舞諸島は統計上、無人)のひとたちは、今後とつぜん日本になった自分たちの土地で、そのまま外国人として暮らすのだろうか? 追われるように土地を離れるんだろうか? またはロシア系日本人として国籍を変えるんだろうか?
ウクライナで起こっていることが気になってしまうのは、北方領土のことがあるからでもある。ウクライナに住むロシア系住民はいま苦境に立たされている。この間のクーデターがもたらしたのは、これまでのウクライナを一変させるものだった。いまの暫定政府は、ロシア系住民に寛大だったかつての政府ではない。これが彼らをして身の置きどころを失わせた。ウクライナのロシア系住民はほとんどウクライナ語が話せない。これまではそれでじゅうぶん生活できたし、学校に行けたし、国家公務員だって務めることだってできた。だのにいまの政権与党(彼らはついこないだまでキエフの暴動で火炎瓶を投げていた人たちだ)は、公用語からロシア語を除外しようとしている。となれば、東ウクライナに多く住むロシア系の多くの人々は職を追われる。たとえウクライナ語が話せたとしても「ロシア系」ということで排除されることだってあるだろう。日本で聞かれる報道ぶりでは、ロシアは悪者でウクライナは弱者であり正義だと思いがち。だけどほんとうにそうだろうか?
▲ ウクライナ暫定政府のいまや与党となったスヴォボダと呼ばれるウクライナ・ネオナチ
住民投票でロシアに編入。というのは、言われるとおり裏でロシアが手を回しているのだろう。だけど、あんがいロシア系住民たちが自衛のために本気の票を投じた結果ではないかとも思う。クリミアで起こったのはまさにそれで、続いてハリコフやドネツクなどロシアに近い東ウクライナの都市で政府機関を占拠している人たちも、同じ動機に従っただけではないのか。
仮に念願かなって北方領土が日本に返還されたとして、そこに住むロシア系住民たちが同じことをしないとも限らない。住民投票の結果、じゃあ色丹島は、国後島はロシアに再編入、ということだってありえる。まあ、仮定の上の仮定だから考えてもしかたのないことかもしれないけど、単に「領土返還」という美しい響きにうっとりしてばかりもいられない気もする。
昨年、キエフ市内から空港へ向かうタクシーで、ウクライナ人の運転手がぼくが日本人であることに気遣い「俺のおやじは軍人でシコッタ(たぶん色丹島といいたかったのだろう)に住んでいた。あの島は日本に帰すべきだ」と言っていたのを思い出す。ありがたい言葉だったが、ロシアに対するウクライナ人への複雑な感情が読みとれる。
▲ 父親が色丹島で勤務していたというキエフの運転手、ウラジミール氏
北方領土は戻って欲しい。
だけどそれが日本になにをもたらすのか、そこが気になる。
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