昔から男の子は怪獣が大好きである。
ぼくも例に漏れず学校の帰り道、友だちとよく怪獣ごっこをして遊んだ。小学2年生のころ『帰ってきたウルトラマン』がテレビで放映されはじめ、ぼくたちはもう寝ても覚めてもそれに夢中であった。ゆえに登場する怪獣の名前はもちろん、体重や身長、武器、弱点などもすべて記憶していた。あの記憶力が今あればなあと、ときどき思う。
ある日、インド人と呼ばれていた(色黒だったので)小川くんといつもの怪獣ごっこをしてときのこと。小川くん、いつもより動きが怪獣っぽい。いつになくリアルなのだ。そう、全体的にスローモーな動き。首を大きくふり、腕を広げ、足を出す。それぞれがゆっくりとしている。振動で揺れるさまを首で表現してみせる。奇声を上げ、のっしのっしと歩くさまも重量感たっぷりだ。
なんだこれは!?
ウルトラマン役のぼくはひるむ。
そうか!とぼくは気づく。動きがゆっくりで可動部位が広いから、大きくみえるんだ。そんな小川くんにあわせてぼくも、ゆっくり手足を動かしてみる。ジャンプし、着地する。足が地面に沈み込む感じ。それを腰をゆっくり沈めることで表現だ。ダダーン。おお!なるほどこういうことか。
とたんに自分の身長が40mになった気がしてくる。3万5千トンの体重とはこんな感じなのだと思ってみる。こうなるとスペシウム光線であっさり仕留めるのが惜しくなる。そこでしばし、スローモーな動きでツインテール(帰ってきたウルトラマン第一話に登場)扮する小川くんと格闘戦をやりあうのだった。おもちゃの車を踏んづけたりしながら。
自分を大きく見せるには動作をゆったりさせる。
怪獣ごっこでぼくが学んだことのひとつだ。
こうして「怪獣ごっこ」はいま、例えばプレゼン発表など仕事に活かされることもある。これも小川くんやジャイアント馬場のおかげだ。
このごろ自分の所作がいちいち遅い。
シャツを着服しボタンをとめる。コーヒーメーカーにフィルターをセットする。座っていたソファから腰をあげる。膝を曲げ湯船に身体を沈める。次の所作にうつすとき、これまでなかった間(ま)がある。「よっこいしょ」と声まで出て自分でたじろぐ。まるでおじいちゃんである。
ゆっくり動作も、意識してのと無意識なのでは、ずいぶん違う。
無意識ってのは実にやっかいだ。
■ウルトラの母
ま、ママ!?
最近のコメント