パスポートこそはブランドだとつねづね思う。
それには経済力、情勢や国際的地位、国同士の関係、入国した人間が不法滞在などの犯罪をしでかす危険性など、あらゆる要素が含まれ、相乗する。
日本のパスポートでは、ビザ無しで入れる国が世界中で150カ国もある。アジア、アフリカ諸国の中ではダントツの一位である。ちなみに韓国パスポートは60カ国、中国パスポートはわずか30カ国しかない上、年齢制限がある。収入審査もある。
世界のパスポートにはランキングまである。Henry & Partners というコンサル会社によるもので、パスポートの自由度に応じてポイントを付与し、順位を出している。ちなみに日本は世界第5位。1位かと思ったが、相手国にはそれほど自由に出入りさせていないという部分がマイナスポイントになっているようである。国内の外国人の犯罪や不法滞在を思えば、いささかためらいがあって然りである。日本よりも高ポイントである北欧諸国は、それでもあえて外国にオープンということなのだろう。
日本に居るだけでは「日本はスゴイ」と言われてもあまりピンとこない。ぼくなんて海外に出る前までは、日本の批判ばかりしていた。外に出て初めてそんな自分のきめつけに気づくこともある。ヨーロッパ・アフリカを半年かけてぐるりと回ったとき、赤いパスポートのもつ威力に各国旅行者からずいぶん羨ましがられた。「民族的にはオレたちのほうが上なのに」と韓国人旅行者から食いつかれたこともある。民族的に?
いまもときどき「日本は格差社会」という人に会う。「日本人は不幸だ」なんてことを言う。ほとんどの人間がなんらかの学校を卒業し、健康保険をもち、コンビニで買物ができ、携帯電話を持っているという日本。住む場所も働く場所も自分で決められる。世界は意外とそうでもない。GDP世界一のアメリカですら国民皆保険がなく、病院で治療を受けられないひとが4000万人もいて、フードスタンプ生活者(生活保護を受けているひと)が5000万人いる。「下を見ればきりがない」という人もいるが、キリがないほど下がいるんだから日本は相対的に高いレベルで生活できているという左証である。「これのどこが高いレベルなんだ!」と腹を立ててもしょうがない。世界の格差はこんなもんじゃないからだ。実態はもう、その場所に行って自分の目で見てくるのが一番である。そう、日本人なら海外へも自由に出入りできるのだから。
そこに生まれただけで役得な日本のパスポート。高級ブランドとして世界にその威光を放つが、これはなにもぼくやあなたの実力じゃない。先人たちの長い長い信頼の積み重ねの結晶である。使用するたびにそのことを認識させられる。
日本に住んでいると、ついそのことを忘れる。傲慢になり、この国の不平不満を並べ立て「自分はなんて不幸なんだ」などと思ったかもしれない。そうならないよう、定期的にパスポートを使う機会を作りたい。
要するにまた
旅に出たくなっただけなのだけど。
秋の夕暮、黄昏るちびきち
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