ソフトウエアの進化もあってか、必要でないメールは自動的に排除されるようになった(たまにそうでないメールも排除されることもあって困るけど)。それでも一定期間メールボックスを開けなければ、メルマガの類がそれなりにたまる。このうち購読料金を払って配信してもらっている有料メルマガをのぞけば、ぼくが読むべきメルマガはいくばくもない。
いくばくもないそんなひとつが新潮社の『考える人』メルマガである。『考える人』は年四回発刊される季刊誌で、なかなか読ませる記事がパッケージされている。270ページ以上あり、ボリュームもまあまあだ。ざっと目を通しても新書2冊分の読後感がある。他の雑誌のようにパラパラめくるというより、カウチに座り、静かな音楽をかけ「さあじっくり読むぞ」という気にさせてくれる。
メルマガについてもそんな紙面を反映してか、わりと縦スクロールを必要とする長めのエッセイがひとつ、どーんとくる。編集長みずからのもので、さすが読ませる内容である。読み流されず、あとにしっくりと残るものがある。本の紹介の仕方もさりげなく秀逸で、うっかり注文してしまったこともある。
じつはぼくも昔仕事で、ある雑誌でメルマガを発行していたことがある。隔週で発行し、毎号軽く短いエッセイを書きイラストを添えた。なんとなくイラ写を思わせるものがあったかもしれない。やはりある雑誌の読者に向けられたメルマガで、その雑誌は残念なことにすでに休刊してしまった。いま思ってもとてもいい雑誌で、読者の想いを真摯に受け止めようとする作り手の想いがあった。
どんなメルマガなら読まれるのか?
携わるだれもが、悩むテーマである。
伝えたい事なら山ほどある。リンク先に来て欲しいし買って欲しいし利用して欲しいし参加して欲しいし、たまには思い出して欲しい。発行者はなにかしら読者からのアクションがほしいのだ。いまのメルマガは「効果検証」抜きには考えにくい。その号のメルマガのどのリンクがどの属性のユーザーによってクリックされたか? またそこからやって来たユーザーはサイトの中のどのページを見、クリックしたか?またそれは成約につながったか? すべからくこれらが計測されデータが作られる。読み手のなにげない所作がぜんぶデータ化されるのだ。
多くの場合、ぼくたちはそんなメルマガにうんざりしている。用があるのは送り手の方で、読み手でない。だったら「メルマガ希望」にチェックマークしなきゃいいじゃないか。そういうひともいる。だがもう5万とあるメルマガから、どれを希望しどれがそうじゃなかっただなんて、だれがいちいち記憶しているだろう?
読んでもらえるメルマガの条件の筆頭はなんといっても「欲しい情報がそれでしか得られない」こと。それから読者に共感をもたれていることである。どんなに正論やありがたい事が書かれていても、他でも読めたり、共感が得られなければ直ちに閉じられためらいなく捨てられる。
先日本屋をのぞくと、表紙に「グルジア」の文字が載る雑誌を発見。『'Scapes(風景)』という旅の写真雑誌だった。ろくに中身も見ずにレジへ。6月に創刊されたばかりの旅雑誌で「まだ見ぬ風景に出会いたい」というのがコンセプト。女性向けのカメラ雑誌のような装丁で、やさしい感じの誌面。旅先の写真がたっぷり載っている。いっぺんで気に入った。大好きなグルジアを特集しているところも。
▲ 聖サバメ教会の写真も。「絵に描いたようなその美しい風景をぼおっと眺めながら鳥肌が立つほど感激していた(本文より)」わかる。ぼくなんて落涙したほど感動したから。
雑誌もまた、その編集方針に共感があってこそ読者がつく。ぼくのような旅好き、写真好きにはたまらない一冊である。さっそくバックナンバーも注文した。いっぽうで旅の雑誌は、その情報の更新性や鮮度から紙よりネットのほうが相性がいい。しばらく苦戦されるだろうけれど、ぜひ生きのびて欲しい雑誌です。『’Scapes』という誌名も、すごくいいと思う。
▲ 左:『’Scape 2013年12月号』、右『考える人2013年秋号』
WEBもいいけど、雑誌もね。
ちなみにあのパントマイムユニット『が〜まるちょば』は聞きなれない語感だけど、グルジア語で「こんにちは」の意味です。
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