2009年、住宅問題に焦点をあてた『房子』というテレビドラマが中国で放映され、その後放映禁止となった。放禁理由は「あまりにリアルすぎるから」。政府官僚の汚職あり、性的描写あり、B型肝炎者への差別あり。原作の邦題は『上海、かたつむりの家』。500ページ近い分厚い本である。冬の休日に朝から読み始め、夕方読み終わった。著書は六六という女性。抵当ローンで住宅を購入し、収入の半分を返済にもっていかれる。人生の黄金期である20年間をそのようにして過ごさねばならない庶民の物語だ。
不動産バブル時代に住宅をローンで購入した庶民は、バブルが弾ければ窮地に陥る。日本人も90年代に多くいた。価値が半減しても何十年もローンは残る。売るに売れず、払うに憔悴。先日、ぼくの仕事仲間だった中国人がこれで失踪した。家族ごと。優秀な男だったのだけど。
中国人は賃貸を嫌う。住宅ローンのために、可処分所得がほとんどなくなった人を中国では「房奴」と呼ぶ。住宅の奴隷、という意味である。中国の住宅バブルはいま、はじけつつあるかもしれない。ならば、買えない庶民も悲惨だが、買った庶民も悲惨だ。米国のサブプライムローンのように、本来なら審査が通らない人もローンを組めてしまっているからだ。
貧しかった人はより貧しく、それほどでもなかった人たちもローン返済で貧しくなる。そんな実情を反映し、期待したほど内需が大きくならない中国経済。外国資本の撤退がこれに拍車をかける。リスク分散もあり、日本企業も中国からASEANへとシフトしつつある。
2000年に香港で仕事を始めたころ「中国には無尽蔵に人がいる。昇給を求める前に辞めさせ、また安く雇えばいい」などと耳打ちされた。だが時代は変わる。2008年から施行された「中国労働契約法」では、労働者を10年雇うと終身雇用が義務付けられた。契約社員でも3度更新すればやはり終身雇用せねばならない。退職した元従業員には「老齢年金」を死ぬまで払い続ける義務もある。外国企業が義務を履行しなければ、関係者の出国を無制限に禁止できるという法律もある(中国民事訴訟法231条)。
加えて恐ろしいのが、以前イラ写でも紹介した「国家総動員法」。外国企業の接収あり、外国人の逮捕あり、中国政府が望めばなんでもあり、の恐ろしい法律である。政治のツケを民間人に払わせるのだから。実際のところ中国は、外交で日本の譲歩を引き出すために在中邦人である人質を使うことをしている。これからは、もっとするかもしれない。
中国人の9割が日本人を嫌い、
日本人の9割が中国人を嫌う。
ここまで嫌い合える仲も何かの縁である。
案外、仲直りすれば強いのかもしれない。
▲ 『上海、かたつむりの家【六六(リュウリュウ)著】』:貧富の拡大、拝金主義、住宅問題、完了の汚職、ローン地獄・・これぞ今の中国の縮図。夢中で読めます。せつない物語です。機会あればご一読を!
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