意外な時間に実家から電話があったので、何ごとかと思い折り返す。年老いた両親は元気のはずだが、なにがあるかわかったもんじゃない。高校時代のクラス会の案内はがき。電話に出たオトンがいう。「返事の期限がせまっとる」
なんだそんなことか。
とにかく何ごともなくてよかった。
故郷の広島を出たのが18歳。
以来、30年以上住んだことがない。矢沢永吉と、そこだけが少し似ている。同窓会にもクラス会にも縁がない。過去に一度だけ参加したことがある。まだ90年代。ドイツからかけつけ参加した。級友の多くは今も同じ場所に住み続けていることを知り、驚いた記憶がある。実家から会社に通う男たちもいた。憧れていたひとがぱっとしてなかったり、あまり目立たなかった子がキレイになっていた。月日はいろんなものを変えていく。それまでと同じ位の時間が流れたのだから。次回のはさらに倍の時間が流れたことになる。
同窓会やクラス会。
男子はともかく、女子はそうもいかない。「痩せなきゃ!」とあわてる向きも多いのではないか。「自分がどう見えるか?」ぼくたち男が想像もできない多くを女性は気にする。着ていく服に思いを巡らせ、美容院の予約をする。女子においては、その日まで慌ただしい日々になるのだろう。いっぽう良い機会でもある。訪れるひとがあれば家が自然とキレイになるように。旦那も驚く。「なんだ?とつぜん体重計なんて出してきて」。同窓会やクラス会がもっと頻繁に行われれば、関連マーケットは活性するにちがいない。ただでさえ日本人の審美眼は肥えている。平均年齢も高い。からだも肥えるが、ますます見る目も肥える。浅はかな美容方法は、すぐに見破られるかもしれない。
それに引き換え、オジサンたちは普段と変わらないオジサンぶりそのままだ。普段と変わらないぶん「あの頃」と比べ、ずいぶん変わることになる。ハゲるしハラも出る。なにやら変な臭いも放っているかもしれない。歳相応に失いたくないものを多く抱えてはいるが、クラス会ごときで失うものはない。そこは案じない。ただ心配なのはリストラ。された後だと、古い友人たちと顔を合わせにくいかもしれない。男は社会的な疎外感を極端に恐れる動物である。それに比べれば、ハゲたり腹が出たことなど別になんてことない。着ていく服など、関心すらない。
はがきにマルして出しておいて。
オトンにそう言い、電話を切る。
高校時代に、あまりいい思い出はない。
振り返りたくなる過去もないから、前しか見ない習慣もつく。自慢できる子供も、家もない。年月はなにか別なものを変えたかもしれないが、それも大したことじゃない。
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