西ウクライナの都市、リヴィウはとても美しい都市である。キエフあたりから直接飛べば、これが同じウクライナだろうか?と思わずにいられない。まるでオーストリアかポーランドに着いたかのような気分になる。
空港からのタクシーは、予約した宿までぼくを連れてってはくれなかった。ロシア語もウクライナ語もわからないぼくは、理由がわからないまま下ろされた場所から、石畳に足を取られるスーツケースを引きつつ歩く。理由はすぐにわかった。車両禁止区域にその宿はあったのだ。
冗談だろう?と思うような古くて床の軋む宿。いささか冒険が過ぎた気がした。ホテルではなくホステル。要するにバックパッカー用の安宿である。一泊、30ユーロ。シャワー、トイレは共同。部屋は鍵が閉まらず、病院にあるようなせまいベッドが4つ。玄関マットのようなタオルが一枚。だが部屋は広い。壁の色はまさかの赤。西陽にあたれば燃えているような色になる。でもどこかなつかしい。20代の頃はこんな宿ばかり泊まりながら旅をしていたものだ。
▲ ホテルの建物、200年前に建てられたアパートを改装してある
荷をほどき、着替えをしていると、突然ドアが開く。女の子が入ってきて「あらいたのね、ごめんなさい」と少しも驚かずにいう。ためらわず部屋に入ってきて「ちょっと洗濯物干させてね」と、シーツやタオルを干しはじめるのだった。この部屋は陽当りがいいらしいのだ。あわててジーンズを着け、Tシャツをかぶるぼくは、客としても、男としても、あるいは人間としても見てもらえなかったのかもしれない。洗濯石鹸の匂いが部屋に漂ってきた。なんとも平和な匂いだった。
美しい街とプライバシーのない宿、リヴィウ。
この都市の呼ばれ方は色いろある。ウクライナ語はリヴィウ、ロシア語でリヴォフ、ポーランド語ではルヴフ、ドイツ語はレンベルグ。なるほど複雑な歴史を持つ都市の運命をよく物語っている。
街を歩けばキリストの十字架やマリア像を見かける。これはキエフにはなかったものだ。そう、ここはウクライナ・カソリックの総本山でもあるのだ。だから東キリスト教(ロシア正教、ウクライナ正教など)の金色のネギ坊主の屋根はこの街にはない。プラハやウイーンでよくみられる、先が尖って直線と曲線が絶妙なバロック調の教会の屋根である。
▲ キリスト教像。おばあさんが近寄り、柱にキスをしていました
▲ 聖マリア像。女性は鳩に乗っているように見えますが、ただの鳩型のハイヒールです。というのは冗談です
カメラを持って歩けば、これがなかなか大変である。ひとブロック毎に写真を撮りたくなる光景に出くわすからだ。あとで消せばいいやとバシャバシャ撮る。この調子では半日とバッテリーが持たないだろう。案の定、予備バッテリーに救われた。たちまち100枚を超えた。こんなに撮るのは自分でも珍しい。
▲ ローアングルの一枚。地面にへばりついて撮影していたら、この自転車にひかれそうになりました
▲ むしろ真上から見たくなるような多角形のアパート(普通のアパートでした)
▲ キリル文字でKAFE(カフェ)と読みます。洒落てますよね看板も
▲ ドミニコ聖堂。13世紀、リヴィウがルーシ公国の首都だった頃の建物
▲ バロック調のツイン塔教会こそ典型的なオーストリア・ハンガリー帝国時代の建物です
▲ ミニチュア第三弾。どうやって屋根に乗せたんだろう?ぜひクリックして拡大して見てみて(パソコンのみ)
▲ ベンチの肘掛け部分はリビウのシンボル、羽の生えたライオンです
▲ ゴミ箱もちゃんとデザインされてます。東京はもっとゴミ箱を増やして欲しいです
▲ リヴィウの街は商業看板が制限されているから、どれだけビルがおり重なっても景観を損ないません
この街のうれしい発見は、コーヒーがとても美味しいこと。カフェはもちろん、屋台のコーヒーも、朝のキオスクで出すコーヒーも、どれも間違いなく美味しかった。ブラックコーヒーのことをウクライナでは「アメリカーノ」と呼ぶが、ブラックでこれほど美味しい体験をしたのはちょっとない。ウイーン、ジェノバ、ヘルシンキ。ぼくが勝手に認定した「コーヒーの美味しいベスト3都市」であるが、リヴィウをこれに加えたい。それぞれの店舗が自ら焙煎し、豆をひいている。通りにまで良い香りが漂う。これはハプスブルグ家のおかげだなと思った。
▲ 早朝はまだカフェは開いていないので、キオスクでコーヒーとサンドイッチを買い、併設されているテーブルについて食べてました
旅先では、たいてい早く起きる。ひとり旅だと夜ヒマなので、すぐに寝ちゃうということもあるけれど。夏なら5時、シャワーを浴びて朝食も取らずに表に出る。通りはすでに明るい。人もまばらにいる。目的は朝の光だ。イノセントで清潔な朝の光。昨晩どんな不浄をしても許してくれそうな朝の光は、写真撮影にとてもいいのだ。石畳の輝きが神々しく、木々の葉がみずみずしい。まさに黄金の時間、夕陽では味わえないものがある。
▲ ウクライナは噂通り美人が多い?それはともかく、白人女性にしてはスレンダーな体型が多く、世界で最もミニのワンピースを着ている割合が高いと思います
▲ 黒山のオジサンだかりはチェスのギャラリー。「どれどれ」「ほう、ここでそうきましたか」
▲ 朝市ではナチスドイツのヘルメットまで売られてました
いい写真がとれたなと思うとき、それはたいてい朝であることが多い。
ベネチアやドゥブロヴニクのように、旧市街は車が入れないからリヴィウの街はすごく歩きやすいし、広告が排除されているので昔ながらのヨーロッパの町が堪能できる。ここまで徹底しているのもめずらしいので、「せっかく綺麗な景色なのに看板が・・」と嘆かれている方、ぜひ訪れてみては?
ほんとうにいつまでもブラブラと散歩したくなる街でした。歩きすぎて、知らないうちに足の指が8本捻挫していたほどです。
それではまた、次の街で!
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