まずは叱られて
クアラルンプールへはこのたび初めてエアアジアを使った。さすがはLCC、料金はびっくりするほど安い。おまけに羽田発着で、離陸時間は午前0時前と遅い。金曜日に夕方まで働いて、いちど自宅に荷物をとりに帰っても間に合う。ネットで直接予約を行い、席を決め、チェックインも済ませておいた。
当日、ボーディングパスを自宅のプリンターで印刷し、鼻歌交じりで機内持ち込み荷物の検査を受けようとしたら、係の人に「航空会社のカウンターであらためてボーディングパスを発行してもらってきてください」と言われた。なんだダメじゃないか、せっかく印刷してきたのに*1。
あわててエアアジアのカウンターへ向かう。ずいぶん空いているなと思ったら、受付は終了された直後だった。そういえば離陸の1時間前にはクローズすると書いてあった気がする。時計は23時を回っていた。地上職員の女性はにこやかに、けれどもあきらかに非難の目で「次からはルールを守ってください!」とぴしゃりという。それから電話をかけ、ぼくの存在をゲートに伝える。「すみません」とあやまるぼく。これがLCC最初の洗礼であった。
予約したのはプレミアムシート。
3万円の追加料金はイタイが、なにしろ飛行時間約7時間の夜行便。横になって眠れるフラットシートは魅力だ。毛布も食事も預け荷物もそれぞれ有料のLCCにあって、プレミアムシートなら全部込み。しかも1機あたり、たったの12席しかない。そのぶんエコノミー席を増やしているのだ。通常のキャリアなら130席のところをLCCでは160席を据えている。これも安さの正体である。
駐機場まではバスで移動。
タラップを登り、機内に入ると迎えるCAにちょっとおどろくかもしれない。真っ赤でタイトなユニフォーム。ボディラインをを強調したスタイルで出迎えてくれる。髪はおろされ化粧が濃い。明らかに他のキャリアとは違うキャラづくりに「飲み屋かな?」と思ったほどだ。美人と言えなくもなく、明らかに容姿で選ばれた形跡が見られる。プレミアムシートならそんなCAが二人つく。つまり乗客6人にひとり、という贅沢さ。追加3万円はダテじゃない。機体は新しく調度品も新品。
あまり待たされることなく離陸し、機体が水平飛行にうつると、さっそくぼくも水平に。うれしそうにボタンを押し、電動シートを最大まで倒す。キルト製の赤い毛布を膝にかけ、窓の外の北斗七星を眺めることにした。こうしていれば、よくある航空会社のCMのように美人CAがそっと毛布を肩までひきあげてくれるにちがいない、という期待はかなわずくしゃみをし、いそいそ自分で毛布を引き上げた。機内は空調が効きすぎて寒い。もしかしたら、有料毛布を借りさせるためかもしんない。
▲ 思いあまって自分撮り、この値段で水平で寝れるヨロコビ.いい時代になった.
徹底したコスト対効果
LCCだろうがJALだろうがファーストクラスだろうがエコノミークラスだろうが、飛んでる時間は同じだし、落ちれば命を失う確率もまた同じ。だけどLCCの料金がこれほど安いのは、徹底したコスト削減である。駐機時間を減らし、使用機体は1種に統一して部品を共通化する。予約で埋まらない席は、なんとしても埋める。埋まらなくてもなんとか換金化する。そこに執念が感じられた。
エコノミー席を予約すると、まもなくOptiontownというところから英文のメールが届く。見出しには「席のアップグレードが正規価格の75%引き」とある。つまり4分の一の価格でプレミアムシートへアップグレードしてくれるのだ。片道およそ1万円の追加料金である。「ただし、もし空いていれば」という条件なので、フライトの前日までに埋まってしまえばアップグレードはない。が、そこにはさらなるオプションが用意され、もれても「となりが空席」シートを選択することが出来る。こっちは6千円の追加料金。なんと3つの席を専有できるのだ。となりの乗客と「ひじ掛けの取り合い」をすることもなくなる。さっそく帰りの便で申し込んでおいた。はたしてプレミアムシートにはもれ、3席自由シートがとれた。ただでさえエコノミーはせまい。LCCだとさらにせまい。となりに人が座っていないというのは、想像以上に快適であった。3席シートはまだ余っていたようで、機内でアップグレードのリクエストを受けていた。先着順だがこっちは4000円弱。事前に申し込むよりさらに安い。空席をタダのままでは飛ばさない。そんな、香港のミニバスのような商法にLCCのたくましさが感じられる。
▲ 3席を独り占め。でも3席も要らないのでひとつを前の人に譲ったら、CAに「勝手に席を替わられては困ります」と一喝された。キビシーい。
毛布貸し出し280円、食事600円、スナック500円、ビール600円、水170円、インスタントコーヒー170円、貸し出しタブレット(ビデオ観賞用)1700円、機内ではあらゆるものが有料である。また預け荷物20kgまでが3000円(羽田発の場合)かかる。
もともとぼくのような、預け荷物なし、機内食いらない、ビデオ見ない、水は持参、というシンプルな乗客こそLCC向きなのかもしれない。また、JALやANAの格安エコノミープライスでビジネスクラスシートが利用出来るのだから、女性やお腹の出たオジサンにはもってこいである。
またLCCは清掃会社を入れないことでも有名だ。なんとCAが機内の掃除をするのだ。パイロットもこれを手伝う。掃除も含めての雇用契約というわけだ。ゆえに飛行中もCAはどんどん席のゴミを片付ける。パイロットはできるだけ早く到着しようとする。この度のフライトも往復でそれぞれ20〜30分到着予定時刻よりも早く着いた。これは乗客にもメリットがある。
それにしてもこれだけ料金が安いと、飛行機とはいえなんだか長距離バスのようである。案の定クアラルンプールでは空港ターミナルがLCC専用に別に用意され、そこは近代的なKLIAとちがい、中東やアジアの主要都市に見られる長距離バスターミナルにそっくりである。生活臭たっぷりである。個人的にはこういうのはキライじゃないけど、セレブなあなたには「ちょっと・・」かもしんない。そしてだだっ広い飛行場を、みんなでてくてく歩いて飛行機へと向かうのだ。こういう経験もなんだか新鮮で楽しい。さあ、あれに見えるがぼくたちの乗るバスだと。とはいえ、炎天下のもと照り返しもあって相当に暑かった。雨でなくてよかったと思う。
▲ こうやって搭乗機までみんなで歩く。なんだかスキップしたい気分になったけどなんとか耐えました。
航空運賃が安い=行動半径が広がる
たとえば週末、東京から実家がある広島に新幹線で往復すれば、格安チケットでも3万5千円。同じくエア・アジアで東京とクアラルンプールを往復すれば3万7千円。ほとんど変わらないのだ。なんというか、世界の人々の行動半径をぐぐっと広げてくれそうである。確かにネットのおかげで地球は小さくなった。LCCが加わったことで地球は物理的にも小さくなった。
いっぽうで環境問題を思えば、やがて航空機の移動は制限されてくるかもしれない。世界は以前より平和を志向する傾向にあるが、またいつ無差別テロだの殺人ウイルスだので、航空機の利用を控える動きも出るかもしれない。その意味では、いまのような好環境はそれほど長いものではないともいえる。
しばらくは、つかの間の春を謳歌したい。
* 料金はすべて「羽田-クアラルンプール間」2013年5月時点のものです。
*1:クアラルンプール空港では使用可能のようでした。空港によってまちまちなのかもしれない
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