買うと決めたマレーシアの物件をキャンセルした。
色々と条件が合わなかったのだけど、いささか悔やまれる。すでに払い込んであったデボジット(前払金)は、戻ってこないと言われた。やむを得ない。承認のサインをしたのはぼくなのだ。
解約の手続きをするため、急遽マレーシアへ飛ぶ。仕事を終え、かんたんに荷物をまとめて羽田へ向かう。搭乗してすぐ離陸した。ナイトフライト。クアラルンプール国際空港についたのは朝の6時だった。
弁護士に会うまでまだ時間がある。
ホテルに荷物を預け、朝の街を散歩することにした。まだ街が目を覚める前の、この時間が大好きである。いくらか浄化したはずの空気を胸いっぱい吸い込み、少し重めのカメラを担ぎ、無精髭のままで通りに飛び出した。
来るたびに新しい建物を発見する。子供の服がすぐ小さくなるように、成長する都市は、次々に身につけるものを変えていく。
あちこちでビルが建造され
アニメ像の肩越しに、ペトロナスツインタワー
通りにほとんど人も車の往来はなく
ネオンの消えた劇場付近には
朝食をとるインド系マレーシア人の人々が。
それでもバナナがぶら下がる市場にも
緑がしげる通りにも
観光客の姿を見ることがある。
やがてぼくのための部屋が用意されたので、さっそくシャワーを浴びる。洗面台はなぜかアイランド式で部屋の真ん中にあった。おかげで窓いっぱいに広がる街を見下ろしながら髭をそることができました。自分の顔を見ながら剃るより、精神衛生上好ましいと思った。剃刀負けしたけれど。
弁護士事務所で解約の書類にサインをした。売り手の中国系マレーシア人のオーナーは同じく弁護士。代理人のポールさんを通して「デポジットはぜんぶ払い戻しますよ。だって日本人でしょ。いいじゃない。また縁があったらよろしくね。」とのことであった。
戻らないはずのデポジットは、こうして戻ることになった。仲介してくれたジュリエットさんもこっそり便宜を図ってくれていたようだ。今回の取引で、1銭も儲からなかったにもかかわらず。関わったすべてにおいて、ほんとうに気持ちがいい人たちであった。そのあとみんなで飲茶をした。これもポールさんがごちそうしてくれた。
ちなみに、昨年末に払い込んでいたデポジットは、いつのまにか増えていた。リンギット(マレーシアの通貨)が円に対して強くなったからである。経済は少しも立ち止まらないで、こうして個人の気まぐれをも補填してくれるのだった。
さて、はじめからやりなおしだ。
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