「きょう、なにが食べたい?」
母親らしき女性が腰をかがめ、
我が子だろうか、に訊いている。
どこにでもある光景のありふれたセリフ。
なんてことない暮らしの1ページ。
のはずだった。
「ママを食べたいな」
なんてガキだ!
それ、パパのセリフじゃないか。
好きなモノを訊かれ、食べさせてもらえる
あたり前のようだけど、あたり前じゃない。
考えてみれば、ものすごく贅沢である。
有無をいわさず食べさせられたり
ひもじくても食べられなかったり
そんな時代は、実はそんなに昔じゃない。
日本を一歩外に出れば
いまでも飢餓人口が8.7億人、いる。
グルメ番組の影響だろうか。
中がジューシーだの、食感がどうの、
もちもちだの、ぷりぷりだの、
舌のうえでとろけるだのと
そんなセリフを口にする人びとを
町の食べ物屋で目にし、耳にする。
ケータイで撮影する音がまたでかい。
そんな光景に、どこか冷めながらも
食事は万人向けの神聖なエンタメであり、
フトコロの深い文化なのだと、
メニューを見ながら、ひとりごちる。
ひとりごちるといえば
『孤独のグルメ』をなぜか見てしまう。
古今東西、グルメ番組は多いけれど
ひとりブツブツつぶやき、飯を食う
だけのドラマなんて他国にあるだろうか。
Huluで配信中なのでよろしければ。
そういえばぼく自身、
幼少のころに母親から「なにが食べたい?」
なんてことを訊かれた記憶がない。
冷蔵庫でオトンの買ってきた食材が
ひっそりと冷えていた記憶はあるが。
だけど
大人になったあと、飲み屋で酔い、
「ママをたべたいな」などと
口説いた記憶はあるかもしれない。
もちもちだの、ぷりぷりだの、
舌の上でとろけるだのと・・・
というのはもちろん冗談です。
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