大蔵省と聞いて「ノーパンしゃぶしゃぶ」を想起するのはぼくだけじゃないと思う。ついでに「ノーパン喫茶」まで思い出しちゃうのは、50代前後以上のオジサンにちがいない。
ノーパンでしゃぶしゃぶして、いったいなにが楽しいのか? 当時ドイツに住む日本人たちの間ではその話題でもちきりだった。とある駐在員男のひとりが「じゃあ、やってみようじゃないか」ということで、人を集めて自宅で「パンしゃぶパーティ」をしたという。しかも参加者、全員男。野郎どもが素肌の上に直接Gパン履いて、みんなでしゃぶしゃぶを食すのだ。「はいてきてないだろうな?」主催者が、ひとりひとりチェックする。 あとで「あまり楽しくなかった」と主催者は話す。それを聞いて爆笑し、椅子から転げ落ちそうになった。
本物の「ノーパンしゃぶしゃぶ」でどんなことをしたのか、ぼくは知らない。だが、これがいまに続く日本の不況のきっかけとなったと聞けば意外だろうか? 不況はデフレによって引き起こされるが、このデフレの原因こそがノーパンしゃぶしゃぶだったのだ。
銀行(MOF担)が大蔵官僚たちを接待する目的は、金融査察情報を聞き出したり、査察を緩くしてもらうなどの便宜をはかってもらうこと。つまりお食事券、いや、汚職事件への一里塚である。97年これが発覚し、関与した銀行側、官僚側に逮捕者があらわれ、辞任したり免職になった。世間の目に耐え切れずこのうち何人かが自殺した。
こんなにも権力が大蔵省に集中しているからイケナイのだ。という世論もあり、大蔵省から金融庁を独立させ、日銀改正法案が成立した。以後、日本銀行は大蔵省にあれこれ言われず自由に目標を決めたり、方法を決めたりできるようになった。ただしこうした権力は移管されただけで、そのものが無くなったわけではない。数年後、大蔵省は財務省へと名前を変えた。
あれ以来日本になにが起こったか?
大蔵官僚が銀行の過剰接待を受けていたことが発覚したのは97年のこと。ノーパンしゃぶしゃぶ店の名は「桜蘭」。風俗店なのに、飲食費として経費で落とせるから都合が良かったのだろう。ほかにもさまざまな接待があったのだろうが、「ノーパンしゃぶしゃぶ」という名は、なかなかインパクトがあった。世間の注目を集めるのに一役買い、意味をはき違えてドイツまで届いた。だが12年も前から汚職接待はあったのに発覚したのが97年、ちょうど3%から5%に消費増税した直後というタイミングというのは、はたして偶然だったか?
日銀は紙幣を発行し、銀行にお金を貸し、政府のお金を管理している。日銀改正法以来、通貨量が減ったのは日銀がお金を刷らないからだ。おかげで民間の銀行の総貸出残高が600兆円から毎年減っていき、400兆円を切るまでになった(いまも400兆円以下である)。リーマンショック後、各国は金融緩和し通貨量の輸血を行ったが、日本は日銀がほとんどなにもしていない。無駄な円高介入でアメリカの国債を買ったくらいだ。本来なら日本の国債を買うべきではなかったか。
日本の自殺者がとつぜん3万人を超えたのも98年からである。デフレなのに通貨量を増やすわけでもなく、消費税の率を上げる。それはまた98年の二の舞だ。銀行は企業にお金を貸さなくなり、企業も投資を控えるようになる。消費は落ち込み、税収そのものも減る。以来自殺者は3万人を超えたままである。
▲ 日本人の自殺者の推移。98年から急増している。増加の殆どは男性であった。
ノーパンしゃぶしゃぶ。
どうかと思うが、ちょっと明るい響きがある。
個人的には「ノーパンはノーパン」「しゃぶしゃぶはしゃぶしゃぶ」で味わいたい気がしないでもないけど。
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