反日デモ、迷惑被る中国人
香港の活動家が尖閣諸島に上陸して逮捕されたことをきっかけに、中国各地で反日運動が勃発しているという。続いて日本の地方議員が同所に上陸したことも火に油を注ぎ、さらに盛り上がる。まあ、おなじみといえばおなじみの光景だ。日本のメディアでは「25都市で日本車に火をつけ、日本料理店を襲撃」とあるが、写真やビデオを見ると、ひっくり返された車は公安のものだったり、襲撃されたお店にはふつうの小売店もある。いずれにせよ単に中国人が中国人のモノを壊したり奪ったりしているだけだ。
燃やしたり破いたりするためとはいえ、世界で最も日本国旗が売れているのは中国である。その次が韓国。愛情表現にいささか問題があるが、ほんとうは日本のことが好きなのかもしれない。
通常、反日デモは「官製デモ」といわれ、政府当局が群衆のエネルギーを使って政治目的を果たすために行う。2005年の国連常任理事国反対デモはまさにこれだ。これは1930年代から、基本的に変わらない。30年代当時は中国に住む日本人男女が数百人、考えられるもっとも残虐な方法で殺されたり(通州事件、済南事件など)と、ずいぶんひどい目にあったが、いまはそんなこともなくだいぶ穏健になった。
▲ 群衆にひっくり返され、棒で殴られているのは日本車ではなく、公安の車両。(日本車だったんですね、中国公安の車両)
官製デモか?
だが今回も「官製デモか?」と訊かれればビミョーだ。中国国内での報道は限定的である。同時多発的に起こったのもSNSの成果であって、裏で政府の手が回っているとは考えにくい。それならせいぜい同時に5箇所まで。25箇所じゃいざというとき、とても手に負えない。政府の一部にそういう動きがないわけじゃないが(たとえば香港漁船の尖閣への出航を許可した関係者)、総意ではない。それより、群衆の暴徒化は厄介だということをあらためて認識したことだろう。いざ自分たちに刃を向けられれば、89年の天安門事件の比じゃない。人民解放軍(中国軍)は銃口の半分を常に自国民へと向けているが、これがその理由である。
写真やビデオを見ると、概してデモの参加者は若い。
仕事もないから、わりとヒマそうである。呼びかけはメールやSNSが使われたそうだが、まるで祭りや花火大会のように「みなさんお誘いの上」といったかんじである。日頃のうっぷんを晴らすいい機会だが、参加者ひとりひとりが日本や日本製に個人的な恨みがあるわけじゃない。
じゃあ何を恨んでいるかといえば、これはもう社会そのものである。共産党であり、金持ちであり、役人であり、成功者である。日本人が自分たちよりいい暮らしをしているのなら、日本人も含まれる。デモの参加者は自尊心が傷ついたり、社会的地位が脅かされている人たちだ。高い学費を払って大学を出ても希望する職はない。知見があり、情報収集もお手のものだが、成功している人と自分との差を思い知らされてもいる。学歴がなければないでさらに自尊心が傷つき、劣等感に苛まれている。車をひっくり返したり店に火をつけたりするのは、そのためだ。自分は一生、車なんて買えないかもしれない。店を構えて儲けることなどできないかもしれない。なら燃やして自分たちと同じにしてしまえ。というわけだ。
原因は格差社会
中国はいま、日本の数100倍、格差社会である。
格差が広がれば人々の不安が強まる。また格差が大きいほど、他人を信頼しなくなる。信頼が薄まれば、人と協力したり共有したりしなくなる。逆に、他人の行動をいちいちダメ出ししてみたり、批判ばかりするようになる。就活ではさんざん他人から採点され、格付けされ、品定めされ、落とされた。いまじゃSNSやブログなどでも格付けされる始末である。だれがだれとどこへ行き、なにを所有し、なにに消費しているか。これまで知らなくてよかった他人の妬ましい情報が、自分との差を知らしめ、劣等感を強める材料となる。うっぷんは溜まる。だが晴らす機会がない。
そんなとき、似たような劣等感を持つ知りあいから「街に出て暴れよう」と誘われる。他のデモなら捕まるリスクがあるが「反日デモ」なら当局から見逃される可能性が高い。「オーケー!やったろうじゃないか」となる。
こうしてうっぷんという火薬に導火線がつながれ、点火される。このとき、点火するものは日本だろうが尖閣だろうが生野菜*1だろうが、なんでもいい。きっかけさえあれば、それでいいのだ。
反日デモの正体なんてそんなものである。
仮に尖閣諸島が中国のものになったところで、それでいい会社に就職できるわけでも所得が増えるわけでもない。数年前なら日の丸燃やして小遣いがもらえたかもしれないが、たぶん今回はそれすらない。いささか乱暴ではあるが、目的はあくまでも「暴徒化してうっぷんをはらす」ただそれだけである。
というわけで「反日デモ」あくまでも中国社会の問題である。だから日本人としては、遠くからそっと「無茶して怪我しないでね」と見守るのが関の山。お気の毒さまです。
『香港イラスト写真日誌』から『東京イラスト写真日誌』へ移行してから7年が経ちました。早いものですね。よくもまあ続けてたもんです。で、今回の記事が東京イラ写における1111本目にあたります。平均すると、2.3日に1度の更新ペース。なんだかゴロがいいので、ちょっとヒトコトさせてもらいました。うーむ、いつのまにかとっくに王監督の現役時代のホームラン数を超えてたんだな。ちなみに香港イラ写は半年で148本。こっちは毎日更新してました。やっぱり若かったんでしょうか。
*1:生野菜:おおかたの中国人は生野菜を食べない
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