一刻も早く立ち去りたい場所
あなたにも多分あると思うのだけど、
ぼくにもそんな場所がある。
見えないものが見えたり、
いるはずのないものがいる場所
を別にすれば、ぼくにとって
「観覧車」がそんな場所である。
初めてあれに乗ったとき、
最初は「なにこれ?」という感じだった。
それが、だんだん上昇するにつれ
がたがたと身体に震えがきた。
それが恐怖によるものだと認識するのに
ちょっと時間がかかるほどの突然さ。
ぼくは
いわゆる高度恐怖症でもなければ
閉所恐怖症でもないのだけれど、
閉所と高所が同時にある場合には、
とつぜん恐怖にかられるようなのだ。
だけど乗るまではそんなこと
まったく意識しなかった。
自分にそんな弱点があるとは
初めて乗るまで気付きもしなかった。
子供のころまでは
遊園地といえば、ジェットコースターと
お化け屋敷という相場が決まっていて
観覧車なんてかったるくて乗ってられるか
というかんじだったのだ。
だから「そのこと」に気づいたのは
もうだいぶあとのこと。
社会人になってからであった。
初めて乗った観覧車
あの恐怖は今でもはっきり憶えている。
じわじわくる恐怖というやつだ。
沈みつつある大型客船でひたひたと水が迫る感じ。
降りたくても降りられない。次第にこわばる身体。
昇降時間も意外と長い。永遠とも思えるほど。
1回転するのをじっと恐怖に耐える時間。
思い出しても冷や汗が出る。
スカイダイビングもいい。
バンジージャンプだってガマンできる。
車のトランクに押し込められても大丈夫。
でも、観覧車だけはいやだ。
「片思い 観覧車のあと 両思い」
胸がドキドキするのはなぜ?
この人のことが好きだから?
本当は乗り物のせいなのに、恋と勘違い。
そう、人間の脳はわりと簡単に騙される。
ぼくの場合は
胸のドキドキ感をはるか超越して
恐怖のどん底の心境である。
そんなぼくと一緒に乗り合わせたならば
その人は幽霊、しかも悪霊であったように
ぼくに記憶されてしまうにちがいない。
気の毒といえば気の毒である。
酒に酔って船に乗ると船酔いしない。
と誰かがいっていたのを思い出す。
自分が今どちらで酔っているのか
判断つかなくなるからなんだそうだ。
なるほど。ならばいっそ、
幽霊と一緒に観覧車に乗れば
怖くなくなるんだろうか?
でも観覧車って、
よく出るらしいですね。
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