海外で暮らしていたとき、不自由を強いられた身元の証明。
それを証明するのは唯一パスポートということになるが、
地元の人達はIDカードで事足りた。IDとサインだけ。
やっぱり自国民はいいな、とうらやましかった。ぼくはドイツの永住権を持つ身だが、国籍は日本だからドイツのIDは持たせてもらえない。
ついでにいえば日本のIDもない。
ぼくだけじゃない、あなたにもないはずだ。
日本は国民ID取得が義務化されていないからだ。
あなたが間違いなくあなたであると身元を証明するものとしては、
健康保険証、パスポート、免許証、住基カードなどがあるが、
国民全員がもれなく持っている共通のものはひとつもない。
つまりこの国には、ぼくやあなたが「実在する国民」として、
国民の身分証明証がないということになる。
こんな国は、世界でもちょっとない。
少なくとも他の先進国ではひとつもない。
チャンスはあった。他国に遅れること2000年。
森首相時代の「e-Japan戦略」計画のときだ。
同じ頃、エストニアや多くの国もこれを目指した。
今では行政サービスや医療サービスはすべてIDと電子で行われる。
処方された薬や病歴も記録され、保護されている。投票もできる。
さすがはスカイプ発祥の国だ。だが日本も負けてない(はずだ)。
2001年から5年にかけて、IT国家を目指す戦略マイルストーン。
予算もたっぷり10兆円つかったという。だが
当時ぼくは、日本にいなかったからかもしれないけど
それで日本がどうIT化したのか、便利になったのかしらない。
途中で住基ネットが問題になり、これに対し朝日や毎日がものすごいネガティブキャンペーンを仕掛けたあげく、ITのことを「イット」と読んだ愉快な首相がいたことくらいしか記憶にない。
ともかく日本でもあらゆる行政サービスや登録申請作業が、
香港のようにネットで行えるようになるものだと思っていた。
そうなったとも聞いた。さすがIT先進国ニッポン。
だが日本に帰ってみるとそんなものはなく、
かろうじて住基ネットの申込用紙を役所で見かけたくらいだった。
運転免許証を切らしていたこともあって、
銀行口座を開設するも、ツタヤでDVDをレンタルするにも
パスポートを提示しなくちゃならなかった。
これじゃ海外にいた時と変わんないな、と思った。
国民IDがいまだにないことで、日本はずいぶん住みにくい。
先の東日本大震災でも、被災者の本人確認がしにくかったり、
公平に支援が行き届かなかったケースも見られた。
こづかいはたいた義援金がどうなったかなんて、知りようもない。
極めつけは30年前に死亡しているのに
戸籍上では「生きている」ことになっていた人がいる。
記録によるとその間、年金は受け取られていたというから怖い。
幽霊の仕業かと思ったら、その人の親族だったというオチがつく
ある意味こっちのほうがコワイが。
年金も消えた。
基礎年金番号がない人もいれば、二重に持つひともでてきた。
本人照合の甘さをつかれ、死人に払い、生人に払わないケースも。
あわてて照合処理してみたら、作業費だけで1344億円かかった。
苦肉の策が「ねんきん定期便」。思えば奇妙な定期便である。
おかげで、これだけで毎年まいとし数百億円かかる。
「監視社会になる!」だの「戦前に逆戻りする!」などと訴え、
国民IDを付与することに大反対するマスコミの真意こそ測りかねるが、その甲斐あって得をする人達が少なくても3種類は、いる。
ひとつめ、納税をごまかしている人
ふたつめ、不法滞在者、またはスパイ。なりすまし
みっつめ、効率の悪さを逆利用してクビにならない役人
またマスコミは世論を使って
個人情報が漏えいしたらどうする!とお題目のように唱えもする。
家に鍵すらかけない田舎の老婆が「個人情報が心配」などという。
たしかに漏れれば大変だとは思うが、対策ならいくつもある。
だのに「万が一漏れたら誰が責任を取るんだ」の前に、沈黙する。
そうやって逡巡している間にも
悪がはびこり、善人の血税は無駄な予算につかわれる。
いちいち役所に足を運ばされ、たっぷりたらい回しの刑を受ける。
マスコミには日本人になりすましている人達がいるんじゃないか
とつくづく思うが、ほんとうかもしれない。
どの新聞もTPP参加には賛成するが、国民ID付与には反対する。
気がつけば「e-Japan戦略」は、「i-Japan戦略」となった。
日本でiPhoneが発売された翌年の、2009年のことだ。
なにがすごいって「イー」 を「アイ」にすり替えただけである。
iPhoneやiPadにあやかりたかったのだろうか。
こんどこそは!と、とても期待しているのだけど。
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